連載「絹糸に託すいのちの輝き」
4月「喜び」
日本刺繡・文=草乃しずか(日本刺繡作家)街を歩いていると、道路の片隅に咲く一輪のスミレに出会いました。「よくがんばって咲いたね」コンクリートの割れ目からほんのわずかな土を頼りに、美しく可愛らしく咲いた花。私は喜びでいっぱいになりました。
出会いは喜びを連れてきます。ある時、刺繡の楽しみを皆で分かち合いたいと思い、刺繡仲間を作り始めました。経験を積み、努力をすることで、世の中の役に立つことができる……。
仲間のひとりが孫の3歳祝着に刺繡をしたいと、相談にきました。孫の幸せを願って、ひと針ひと針刺繡する彼女の思いを膨らませて、図案や色彩を考えました。それから約1年後にできあがった祝着を着た孫と家族の写真を見せてもらった時の、私の喜びは例えようがありません。喜びは、相手がいるからこそ、出会いがあるからこそ得られるのです。

紫のスミレと黄色の蝶が出会った、ある春の日の風景。スミレは「私の花粉をどこかに連れていって」と。蝶は、その花粉をつけてひらひら飛んでいきました。互いに役に立つことで、喜びを分かち合っています。控えめなスミレは、花も葉も刺し繡いで。華やかな蝶地は地引き、相良、菅繡いで色彩豊かに。
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