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司馬遼太郎『坂の上の雲』に登場する「一朶雲(いちだぐも)」とはどんな雲?

2026.03.26

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空を見上げて365 私たちの身近にある空には未知の魅力や不思議が詰まっています。誰かに話してみたくなるような空の世界を、雲研究者の荒木健太郎さんが案内します。一緒に今日の空を見上げてみませんか。 連載一覧はこちら>>

一朶雲(いちだぐも)

日差しが暖かく感じられる日には、青空に白いかたまり状の雲が浮かんでいるのを見かけることがあります。こうしたひとかたまりの雲は、「一朶雲(いちだぐも)」と呼ばれ、主に積雲(綿雲)を指しています。

「朶」という漢字には、もともと花のついた枝という意味があり、ひと枝に群れて咲く桜の様子を「一朶の桜」と表すことがあります。また、そうした花の束のように見える、丸みを帯びた輪郭をもつ積雲を「一朶」「二朶」と数えることもあります。

春になると、気温の上昇とともに空気中に含まれる水蒸気の量も増えてきます。すると、温められた地表面付近の空気が上昇することで、積雲も生まれやすくなります。


積雲の内部を通る上昇気流の経路の周辺では、空気の不足を補おうとする流れが生じるため、無数の渦が発生します。この渦によって雲の外側の空気が雲内へと巻き込まれ、雲のなかに空気の乱れ(乱流)が発生します。雲内の乱流の影響で、雲の輪郭は丸みを帯びながら、上空へ向かってモクモクと成長していきます。このように、積雲はまさに「一朶雲」という名に相応しい姿をしているのです。

司馬遼太郎(1923~1996年)の代表作の一つ『坂の上の雲』のあとがきには、

「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。」

という、物語の根幹を成す一節があります。登場人物たちが前だけを向き、目標を見つめて進んでいく、その理想を「一朶の白い雲」と表現しているのです。そう考えると、「一朶の雲」は単なる積雲を指す語ではなく、大きな目標や志そのものを象徴する存在とも言えそうです。

春の青空に浮かぶ積雲は、不安定な空でこれから上に向かって大きく成長していこうという、まさに上昇志向を持った「一朶の雲」といえます。その姿は、新しい季節に向かう期待を映しているようにも見えてきます。

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写真/荒木健太郎

写真/荒木健太郎


監修/荒木 健太郎 Kentaro Araki
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲の仕組みを研究している。映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』『マツコの知らない世界』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズなど。XInstagramYouTube

文/佐々木 恭子 Kyoko Sasaki
気象予報士・防災士。合同会社てんコロ.代表。民間気象会社で予報業務を担当、気象予報士受験生向けのスクール主宰。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 天気の話』(日本文芸社)など。XYouTube

●参考文献/『雲の超図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)、本の話『『坂の上の雲』の「あとがき」に見る司馬遼太郎の名言』東谷暁 URL:https://books.bunshun.jp/articles/-/1886、『流れの科学』木村竜治著(東海大学出版部)、『もっとすごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)

監修/荒木健太郎 文/佐々木恭子 協力/津田紗矢佳、太田絢子

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