名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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石橋(いしばし)
「石橋」は文字通り、石の橋に因む地形由来の名字です。
今では橋はどこにでもあり、珍しいものではありません。しかし、江戸時代でも江戸や大坂、京都、名古屋といった大都市や、東海道といった街道を除くと、常設されている橋はあまりありませんでした。川は渡し船で渡るものだったのです。
戦などで大軍が渡る際には、川の上に対岸まで船をつないでその上を渡りました。これを「舟橋(船橋)」といいます。
名字の多くが誕生したのはもっと古い時代が中心ですから常設の橋は珍しく、「橋」はランドマーク的な存存在だったはずです。従って、「高橋」「橋本」を始め、名字には「橋」のつくものがたくさんあるのです。
そうしたなか、石で作った橋というのは極めて珍しかったはずです。そのため、石の橋がある場所は「石橋」という地名になり、そこに住んだ人が「石橋」を名字にしました。
最も有名な石橋地名は、下野国河内郡の日光街道にある石橋宿(現在の栃木県下野市)でしょう。この地名は、街道の東側にある池上明神の前の水路に石で造った橋があったことに由来していると伝えていますが、現在では池上明神はなく、場所もはっきりしません。石橋宿は江戸時代には30軒もの旅籠を抱える大きな宿場でした。
そして、歴史上最も有名な石橋氏もここがルーツといわれています。南北朝時代、清和源氏で足利氏一族の和義が石橋氏を名乗っていました。石橋和義は足利尊氏に従って若狭守護となり、室町幕府引付頭人もつとめました。
戦国時代の陸奥国安達郡の塩松城(現在の福島県二本松市)城主の石橋氏は、この末裔ともいいます。
現在は福岡県から佐賀県にかけて、千葉県、島根県の3か所に多く、千葉県神崎町では町の最多名字が「石橋」です。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)