空を見上げて365 私たちの身近にある空には未知の魅力や不思議が詰まっています。誰かに話してみたくなるような空の世界を、雲研究者の荒木健太郎さんが案内します。一緒に今日の空を見上げてみませんか。
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表層雪崩と全層雪崩
冬は山肌に雪が積もり、雪化粧した山々の美しい景観が広がりますが、春は一転して、「雪崩(なだれ)」の危険性と向き合う季節になります。
雪崩とは、山肌に積もった雪が斜面を崩れ落ちる現象のことです。斜面の積雪は、重力により斜面に沿って滑り落ちようとする「駆動力」と、正反対に積雪を留めようとする「支持力」という力が釣り合っている状態にあります。ところが、降雪や降雨、あるいは気温上昇などをきっかけに駆動力が支持力を上回ってしまうと、その均衡が崩れて、雪崩が発生するのです。
雪崩は、一般に勾配が35~45度の斜面で、特に低木林や植生の乏しい場所で発生しやすく、全国には2万以上の危険箇所があるといわれています。
雪崩は、雪が滑る面によって「表層雪崩」と「全層雪崩」の2種類に分けられます。
表層雪崩は、古い積雪の上に積もった新雪の層が滑り落ちる現象です。この雪崩は、時速100~200キロメートルという新幹線並みの速度に達することもあります。雪の降りやすい真冬にも多く発生するという特徴があります。ただ、低温と高温を繰り返す春にかけても雪が降った際には注意が必要です。
一方、春先に発生しやすいのが全層雪崩です。全層雪崩は、滑る面が山肌の地面にある現象です。固くて重い積雪が流れ落ちるように崩れ、表層雪崩に比べると速度は遅いものの、破壊力は大きいという特徴があります。雨が降ったり、フェーン現象で気温が上昇したりすると雪が融け始め、雪質も変化します。こうしたことが一因となり、積雪と地面の間の摩擦が低下し、支持力が弱まることで、全層雪崩が発生するのです。
表層雪崩も全層雪崩も、大きな災害を引き起こす可能性があります。そのため、気象庁では雪崩によって人や建物へ被害が及ぶおそれがあると予想した場合には、「なだれ注意報」を発表して注意を呼び掛けています。春スキーや春山登山などに出かける予定がある場合は、急な気温上昇や、低気圧の通過に伴う雨の予報など、数日前から天気予報を確認することが、危険を回避する重要な手がかりとなるでしょう。
写真/PIXTA
監修/荒木 健太郎 Kentaro Araki雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲の仕組みを研究している。映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』『マツコの知らない世界』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズなど。
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YouTube文/佐々木 恭子 Kyoko Sasaki気象予報士・防災士。合同会社てんコロ.代表。民間気象会社で予報業務を担当、気象予報士受験生向けのスクール主宰。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 天気の話』(日本文芸社)など。
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YouTube●参考文献/国土交通省『雪崩防災』URL:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/nadare.html、雪氷防災研究センター『雪崩発生のメカニズム』URL:https://www.bosai.go.jp/seppyo/disaster/avalanche_mechanism.html、『防災の超図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)