空を見上げて365 私たちの身近にある空には未知の魅力や不思議が詰まっています。誰かに話してみたくなるような空の世界を、雲研究者の荒木健太郎さんが案内します。一緒に今日の空を見上げてみませんか。
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皆既月食(2)月の色
2026年3月3日には、皆既月食が見られます。月食の最中、月はさまざまな表情を見せてくれます。
皆既月食では、満月が地球の影(本影)に入り込んで月の一部が欠ける部分食から、月全体が隠れて暗くなる皆既食までの一連の変化を観察することができます。中でも、皆既食中の月は「赤銅色(しゃくどういろ)」と呼ばれる、深みのある赤褐色の姿になります。
この神秘的な色合いは、地球の大気による光の散乱と屈折によって生まれます。地球に届いた太陽光は、大気によって散乱されます。その際、波長の短い光ほど強く散乱されてしまい、波長の長い赤い光だけが残ります。赤い光は、弱まりながらも大気によってわずかに屈折して、本影の方向に進みます。これが、本影に隠れた月を照らすことで、皆既月食中の月は赤銅色に染まるのです。
部分食の最中には、もうひとつ美しい現象が観察できます。それが、月の欠けた部分の縁に見える「ターコイズフリンジ」と呼ばれる青色の帯です。ターコイズはトルコ石のことで、青~緑色の独特の色調を帯びています。フリンジは縁やへりを意味しており、ターコイズフリンジを直訳すれば「トルコ石色の縁」となります。
この青色が見られるのは、オゾンの働きによります。オゾンは、太陽光のうち青以外の光をほとんど吸収してしまうという特徴があります。そのため太陽光が、地上から高度約10~50キロメートルに広がるオゾン層を通過する際、青系の光だけが透過されます。この光が半影と本影の境目にある月に届き、月の欠けた部分を青く縁取るのです。
ターコイズフリンジは、双眼鏡や望遠鏡を使えば観察でき、デジタルカメラで撮影も可能です。刻々と表情を変えながら進む月食は、その始まりから終わりまで、目の離せない天文現象です。
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写真/荒木健太郎
監修/荒木 健太郎 Kentaro Araki雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲の仕組みを研究している。映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』『マツコの知らない世界』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズなど。
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YouTube文/佐々木 恭子 Kyoko Sasaki気象予報士・防災士。合同会社てんコロ.代表。民間気象会社で予報業務を担当、気象予報士受験生向けのスクール主宰。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 天気の話』(日本文芸社)など。
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YouTube●参考文献/国立天文台『皆既月食(2026年3月)』URL:https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2026/03-topics02.html、『もっとすごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)、『Simulating irradiance and color during lunar eclipses using satellite data』Stanley David Gedzelman、Michael Vollmer