空を見上げて365 私たちの身近にある空には未知の魅力や不思議が詰まっています。誰かに話してみたくなるような空の世界を、雲研究者の荒木健太郎さんが案内します。一緒に今日の空を見上げてみませんか。
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友待つ雪
雪には、雪の性質や降り方によって「粉雪」「湿雪(しっせつ)」などさまざまな呼び名があります。さらに、古い文学や和歌が由来となっている「淡雪」「忘雪(わすれゆき)」など美しい名前もあります。「友待つ雪」も、そうした名前の一つです。和歌や『源氏物語』にも登場する言葉で、「次の雪が降るまで残っている雪」を意味しています。
「友待つ雪」が最初に登場するのは、万葉集の編纂者の一人と考えられている大伴家持(おおともの・やかもち)の歌です。
「白雪の 色わきがたき 梅が枝に 友待つ雪ぞ 消え残りたる」
この歌は、白梅の枝に残る白い雪が、梅の花と見分けのつかない様子を詠んだものです。
この歌が詠まれたのが、家持の越中国(富山)在任中か、奈良の都に居た頃のものかは不明です。奈良では、梅の見ごろは3月下旬頃までである一方、冬の最後の降雪日(雪の終日)は平年で3月下旬です。富山では、地域差はありますが梅の見ごろは3月下旬頃までで、雪の終日は4月初めです。いずれも、春を告げる梅と、冬の名残である雪が同じ景色の中に並ぶことから、すでに雪の降る機会が少なくなっている時期であることが読み取れます。
つまり、ここで詠まれている「友待つ雪」はただの残雪ではなく、もはや訪れないかもしれない友を思いながら、消えずに踏みとどまっている、わずかな雪であることがうかがえるのです。
家持のこの歌は、自然の風景や季節の情景を詠んだ叙景歌で、歌の中に人の姿はありません。それゆえに「友待つ雪」という言葉には、なかなか会えない家族や、亡くなった友人を想う気持ちなどを、それぞれの立場で重ね合わせることができるのではないでしょうか。
写真/まりも
監修/荒木 健太郎 Kentaro Araki雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲の仕組みを研究している。映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』『マツコの知らない世界』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズなど。
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YouTube文/佐々木 恭子 Kyoko Sasaki気象予報士・防災士。合同会社てんコロ.代表。民間気象会社で予報業務を担当、気象予報士受験生向けのスクール主宰。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 天気の話』(日本文芸社)など。
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YouTube●参考文献/吉村誠『大伴家持「雪の上に照れる月夜に梅の花」(巻18・4134)における「雪月花」の定位』 URL:http://jeai.edu.yamaguchi-u.ac.jp/Vol-08/no-2.pdf、京菓子司「亀廣脇」『「友待つ雪」16個入り』 URL:https://kamehirowaki.net/?pid=166687480、『最高にすごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)、コトバンク『友待つ雪』URL:https://kotobank.jp/word/%E5%8F%8B%E5%BE%85%E3%81%A4%E9%9B%AA-2068085?utm_source=chatgpt.com#goog_rewarded、とやま観光ナビ『富山の梅』URL:https://www.info-toyama.com/stories/umetoyama、なら旅ネット『奈良 梅の名所&絶景』URL:https://yamatoji.nara-kankou.or.jp/page/page_67.html、気象庁『平年値(霜・雪・結氷の初終日と初冠雪日)富山』URL:https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/nml_sfc_season.php?prec_no=55&block_no=47607&year=&month=&day=&view=、気象庁『平年値(霜・雪・結氷の初終日と初冠雪日)奈良』URL:https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/nml_sfc_season.php?prec_no=64&block_no=47780&year=&month=&day=&view=