名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
連載一覧はこちら>>
難読名字:巨椋(おぐら)
「巨椋」と書いて「おぐら」と読む名字があります。
京都府宇治市の京滋バイパスに巨椋インターチェンジがありますし、この付近の地名となっているので京都周辺の人にとっては馴染みがあると思いますが、それ以外の地域の人にはかなりの難読です。
さて、今となってはちょっと信じがたいのですが、かつて京都市の南には巨椋池という大きな池がありました。現在の京都市伏見区・宇治市・久御山町の3つの市区町村にまたがる広大なもので、「池」というよりは完全に湖という規模でした。
平安時代の巨椋池は島々が浮かぶ景勝地で、京からそれほど遠くないこともあり、池のほとりには貴族の別荘が立っていたといいます。
しかし、池の周囲ではしばしば水害が発生したため、豊臣秀吉は伏見城を築くと巨椋池に堤防を築いて、それまで巨椋池に流れ込んでいた宇治川を切り離しました。その痕跡は「宇治川太閤堤跡」として国の史跡に指定されています。
江戸時代にはハスで知られ、初夏には多くの人が「蓮見」に訪れたそうです。
その後、巨椋池は分割されて小さくなりました。それでも昭和の初め頃でも周囲8キロというかなり大きな池で、漁も盛んに行われていました。しかし、生活排水の流入によって水質が悪化したこともあり、昭和8年から国による干拓事業が始まります。昭和16年には一部を残して池は消滅、広大な農地に変貌しました。
この近くにある、京阪電車の中書島駅や近鉄京都線の向島駅、足利義昭が織田信長に抗して籠城した槙島城といった「島」のつく地名は、いずれも巨椋池に浮かぶ島だったことに由来しています。
この巨椋池に因む名字が「巨椋」で、現在は滋賀県長浜市に集中しています。
・ほかの名字の由来も読む>>
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)