名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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難読名字:一柳(いちやなぎ・ひとつやなぎ)
「一柳」という名字を見たことがあるでしょうか。九州・沖縄と東北以外に広く分布しているので、実際に会ったことがあるという人も多いでしょう。では、「一柳」をなんと読むでしょうか。
「一柳」には大きく3つの読み方があります。
歴史的に最も有名なのは「ひとつやなぎ」です。
戦国時代、美濃国厚見郡(現在の岐阜県)の国衆に一柳(ひとつやなぎ)氏がいました。伊予の戦国大名河野氏の一族で、大永年間(1521~1528年)に河野通直の庶子宣高が美濃国厚見郡西野村(現在の岐阜市)に移って土岐氏に仕えたのが祖といいます。
『寛政重修諸家譜』によると、土岐の郡司らと蹴鞠をしていたときに庭に生えていた立派な柳に因んで「一柳」の名字を賜ったとあります。
しかし、尾張国に一柳御厨(一楊とも。現在の名古屋市中川区)という地名があり、これに由来する可能性もあります。
その後、直末・直盛兄弟が豊臣秀吉に仕えました。直末は秀吉の小田原攻めに従軍して戦死したものの、江戸時代直末の子孫は旗本に、直盛の子孫は播磨小野藩主と伊予小松藩主となりました。会津藩家老となった一族もいます。
滋賀県近江八幡市でメンソレータムの近江兄弟社を創立したウィリアム・メレル・ヴォーリズの妻として知られる一柳満喜子は、小野藩主の一族です。
現在最も多い読み方は、漢字をそのまま読んだ「いちやなぎ」です。
「一柳」名字が最も集中している愛知県、岐阜県、神奈川県の3県では圧倒的に「いちやなぎ」と読む他、ほとんどの地域で「いちやなぎ」が最多となっています。
ただし、高知県では9割以上が「いちりゅう」です。高知県以外には少なく、高知独特の読み方と言えます。
全国を合計すると7割以上が「いちやなぎ」と読み、次いで「いちりゅう」「ひとつやなぎ」の順となっています。
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森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
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