名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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難読名字:筧(かけい)
「筧」という名字は見たことがあると思います。有名な俳優もおり、多くの人は正しく読めるのではないでしょうか。
では、「筧」とはなんだかわかるでしょうか。実は日常生活と深く結びついたもののことです。
さて、江戸時代以前は、今のように各家まで水道管が通っているわけではありませんでした。
従って、生活に必要な水は川や用水路を利用していました。江戸では地下に多摩川などから引いた上水が流れており、ここに井戸を掘って水を汲んでいたのです。
こうした水を引くための導管を「ひ」といい、「樋」という漢字をあてました。今では「とい」といわれることが多いと思います。
この「ひ」は引き方によって大きく2つに分けられます。
地上に導管を渡した「ひ」を「かけひ(懸樋)」といい、地中に埋めた導管を「うずみひ(埋樋)」といいます。地上を通した方が簡単なため「かけひ」の方が多く、節を抜いた竹筒を導管として使用したことから竹冠の「筧」という漢字をあてるのです。
こうした「かけひ」に因んだ名字が「筧」で、各地に広く分布しています。
従って、「筧」の読み方は本来「かけひ」なのです。しかし、「幸ひ」と書いて「さいわい」と読むように、旧仮名遣いでは「ひ」を「い」と読むことが多かったため、「筧(かけひ)」という名字は次第に「かけい」とも読むようになりました。
現在、「筧」は愛知県を中心に東海地方から関西にかけて多く、なかでも愛知県一宮市に集中しています。
そして、愛知県と三重県では圧倒的に「かけひ」と読むことが多く、両県以外では読み方が「かけい」と「かけひ」に分かれています。
全国を合計すると「かけひ」が多くて名字ランキングでは3000位台、一方の「かけい」は4000位台で、いずれも普通の名字の範疇です。
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森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)