連載「絹糸に託すいのちの輝き」
2月「瑞々しさ」
日本刺繡・文=草乃しずか(日本刺繡作家)能登生まれの私は、雪に包まれた古いお寺でのことを時々思い出します。木の廊下を裸足で歩いていると、足の底からジンとした冷たさが体の中に広がっていくのですが、不思議と心は瑞々しくなっていくのです。日本海から吹く冬の風は厳しいものでしたが、今や私の感性には欠かせない経験です。
厳しさに耐え、生き抜くのに必要なのは、芯の強さと優しさではないでしょうか。私にとって、それが瑞々しさでは……と思うのです。越前岬には、冬の日本海での風を受けて咲く水仙があります。水仙の葉は、まるで冷たい風から守るようにして、小さな花を囲んでいるではありませんか。水仙の花には、華やかさはないのですが、その優しい香りと、ひたむきな姿にひかれます。冬の厳しさに咲く水仙を刺繡しながら、なぜかほのかな優しさに包まれていくのです。

水仙は葉が多く、花は少しです。冷たい風に揺れながらも花を守っている葉をまつり縫いの線で表現しました。花は寒さに耐えられるように横向きにして。白と緑の刺し縫いが瑞々しさを伝えます。
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