〔特集〕世界遺産「那智滝」を望む茶会 後鳥羽院熊野詣に思いを馳せて 紀伊半島の大自然に育まれた熊野信仰の聖地を舞台に、東京大学が新宮市と連携し、熊野三社、青岸渡寺等の協力を得て立ち上げた「東大人文・熊野プロジェクト」。その活動の一環として、このたび青岸渡寺の茶室「瀧寿庵」に関係者が集い、いにしえに思いを馳せる一会を催しました。
潮田洋一郎さん(数寄者)
髙木亮英さん(青岸渡寺住職)
松﨑照明さん(建築史家)
太田 泉フロランスさん(美術史家)
代点 木下華子さん(中世日本文学研究者)
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濃茶席
茶入 仁清肩衝
茶碗 光悦赤筒 銘 埋火
茶杓 宗旦 銘 サビ者
源通親の熊野懐紙に見守られながら、濃茶点前が始まりました。記された歌題「旅宿埋火」と呼応するように持ち出されたのは、光悦茶碗「埋火」。寒さが残るこの季節にふさわしい筒形の茶碗です。朝、亭主方が汲んできた那智の大滝の霊水が釜の中でたぎり、その湯で丁寧に練られた一服の茶が、客人の心と体を温めます。
懐紙の和歌と響き合う光悦の赤茶碗「埋火」

主客一座建立の場となった三畳台目の小間。かつて後鳥羽院のもとに各分野の達人が訪れたように、現代の宗教、学問、数寄の先達が集う。
潮田 茶碗は本阿弥光悦の「埋火」です。
太田 泉フロランス(以下、太田) 「旅宿埋火」に繫がるのですね。手にとってお茶をいただくと、茶碗から目が離せません。目頭と胸が熱くなる思いです。
濃茶を練る木下華子さん。光悦の茶碗を手にし、「扱いにくいはずの深い筒なのに、とてもよく手になじみます」としみじみ。

茶碗に合わせた茶杓は千宗旦の「サビ者」。宗旦と光悦はともに寛永年間(1624 〜1644年)の文化人として親交を深めていた。
潮田 大滝の水を頂戴してきましてね。
松﨑照明(以下、松﨑) 修験者にとって熊野は最高の聖地です。その地にこのような茶室があり、皆様と那智のよさを享受できるとはこの上ない喜びです。
太田 松﨑先生は建築がご専門であり、修験道の実践者でもいらっしゃるから。
菓子は新宮市の菓子舗「松葉屋」の銘菓「天の川」。

きもの/ EMON
松﨑 那智の大滝の前には、以前、滝拝殿という建物がありました。滝本衆と呼ばれた山伏らがそこを護っていて、上皇一行がいらしたときも応対しているはず。ご住職はその直系の復興者で、今回の茶会はまるで時空が昔と繫がっていて、上皇一行とともに滝を寿いでいる思いです。
太田 泉フロランスさん(おおた・いずみ・ふろらんす)沖縄県立芸術大学、芸術学専攻講師。専門は中世ヨーロッパ美術史。特に金細工工芸や、巡礼と美術の相関等に関心があり、サンティアゴ巡礼、熊野巡礼経験者。2024年度まで東大人文・熊野プロジェクト担当助教。
木下華子さん(きのした・はなこ)東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授。博士(文学)。専門は中世日本文学。『方丈記』に代表される鴨長明の文学や中世和歌を中心に研究。東大人文・熊野プロジェクトでは新宮や那智について講演。
松﨑照明さん(まつざき・てるあき)日本建築史意匠学(博士)。特に山岳信仰建築と茶室を中心に研究を進める。その関連で、羽黒、大峰修験などの峰入修行を行い、茶室調査、茶会へも参じる。東大人文・熊野プロジェクトには準備段階から協力。
髙木亮英さん(たかぎ・りょうえい)那智山生まれ。那智山青岸渡寺住職、大僧正。熊野修験正大先達。熊野大峰奥駈修行、葛城二十八宿行、那智四十八滝行、諸国霊山登拝、世界仏教聖地巡礼。2023年那智山行者堂再興。熊野修験を150年ぶりに復興。
潮田洋一郎さん(うしおだ・よういちろう)1953年東京生まれ。数寄者。東京大学、シカゴ大学卒業。LIXILグループ元CEO、元取締役会議長。大師会、光悦会評議員。著書に『数寄の真髄』ほか。今回の青岸渡寺「瀧寿庵」での茶会では席主を務める。
(次回へ続く。
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