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青岸渡寺の茶会「濃茶席」 熊野懐紙に記される早春の和歌2首

2026.01.29

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〔特集〕世界遺産「那智滝」を望む茶会 後鳥羽院熊野詣に思いを馳せて 紀伊半島の大自然に育まれた熊野信仰の聖地を舞台に、東京大学が新宮市と連携し、熊野三社、青岸渡寺等の協力を得て立ち上げた「東大人文・熊野プロジェクト」。その活動の一環として、このたび青岸渡寺の茶室「瀧寿庵」に関係者が集い、いにしえに思いを馳せる一会を催しました。

潮田洋一郎さん(数寄者)
髙木亮英さん(青岸渡寺住職)
松﨑照明さん(建築史家)
太田 泉フロランスさん(美術史家)

代点 木下華子さん(中世日本文学研究者)

特集「世界遺産『那智滝』を望む茶会 後鳥羽院熊野詣に思いを馳せて」の記事一覧はこちら>>>

濃茶席

 源通親筆(重要文化財) 熊野懐紙
花入 布薩水瓶

客人たちが茶室の躙口をくぐると、床の間に源通親筆の和歌が掛かっています。鎌倉時代、当時の文化サロンの中心人物だった後鳥羽院が熊野詣の途次にたびたび和歌会を催し、随行した人々が書き残した「熊野懐紙」の一つで、まるでずっとここにあったかのような佇まい。かつて熊野で詠まれた歌が時空を超え帰ってきた瞬間です。

熊野懐紙に記される早春の和歌2首

腰掛待合で席入りを待つ客人たち。座して那智の大滝を望むことができる特別なロケーション。

腰掛待合で席入りを待つ客人たち。座して那智の大滝を望むことができる特別なロケーション。

髙木亮英(以下、髙木) このたび、潮田様にご教示を賜り、このような茶会を開催していただき、関係者の方々に対する感謝の思いはひとしおでございます。

潮田洋一郎(以下、潮田) 当方こそ、貴重な茶室で席主を務めさせていただくご許可を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。

髙木 世界遺産の地にあるこの茶室が、茶の心を介して人々に安らぎを供していければと思う次第です。潮田様のお道具が入ることで、空間に命が吹き込まれたようです。

潮田 床の掛物は、早春の和歌が2首したためられた源通親筆の熊野懐紙です。

髙木 この茶室に熊野懐紙が掛かることになるとは。感銘いたしました。

潮田 800年ぶりの里帰りかな。先ほど専門家の木下さんが改めて歌意を解説してくださいましてね。熊野懐紙と私の仲がさらに深まった気がしています。

「800年の歳月を経て、里帰りした熊野懐紙」 詠山河水鳥和歌 右近衛大将(源)通親 たにかはのいわまのこけやおしとりのたまものふねのとまりなるらん 旅宿埋火 うつみ火のあたりのみかはかりいをさすかきねのむめも春しらせけり  床に掛かる「熊野懐紙」は、後鳥羽院の熊野詣に随行した源通親の書で、「山河水鳥」「旅宿埋火」の和歌2首がしたためられている。手前の古格を感じさせる水瓶には、春の兆しを告げる土佐水木の枝と白玉椿が入る。

800年の歳月を経て、里帰りした熊野懐紙
「詠山河水鳥和歌 右近衛大将(源)通親 たにかはのいわまのこけやおしとりのたまものふねのとまりなるらん 旅宿埋火 うつみ火のあたりのみかはかりいをさすかきねのむめも春しらせけり」
床に掛かる「熊野懐紙」は、後鳥羽院の熊野詣に随行した源通親の書で、「山河水鳥」「旅宿埋火」の和歌2首がしたためられている。手前の古格を感じさせる水瓶には、春の兆しを告げる土佐水木の枝と白玉椿が入る。

木下華子(以下、木下) 歌題は「山河水鳥」と「旅宿埋火」。山河の水鳥は、苔むした谷川の岩間に鴛鴦(おしどり)が羽を休める様子を、港に停泊する舟に見立てて詠じます。苔の緑、鴛鴦の羽の色、非常に色彩豊かです。旅宿の埋火は、簡素に結んだ旅の庵には垣根の辺りに梅の木があり、馥郁たる香りが漂う。埋火の暖かさに春を思いつつも、梅の香に囲まれて、「埋火だけではなく、梅の香もまた春を知らせてくれるのだなあ」と実感する歌です。
太田 泉フロランスさん(おおた・いずみ・ふろらんす)
沖縄県立芸術大学、芸術学専攻講師。専門は中世ヨーロッパ美術史。特に金細工工芸や、巡礼と美術の相関等に関心があり、サンティアゴ巡礼、熊野巡礼経験者。2024年度まで東大人文・熊野プロジェクト担当助教。

木下華子さん(きのした・はなこ)
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授。博士(文学)。専門は中世日本文学。『方丈記』に代表される鴨長明の文学や中世和歌を中心に研究。東大人文・熊野プロジェクトでは新宮や那智について講演。

松﨑照明さん(まつざき・てるあき)
日本建築史意匠学(博士)。特に山岳信仰建築と茶室を中心に研究を進める。その関連で、羽黒、大峰修験などの峰入修行を行い、茶室調査、茶会へも参じる。東大人文・熊野プロジェクトには準備段階から協力。

髙木亮英さん(たかぎ・りょうえい)
那智山生まれ。那智山青岸渡寺住職、大僧正。熊野修験正大先達。熊野大峰奥駈修行、葛城二十八宿行、那智四十八滝行、諸国霊山登拝、世界仏教聖地巡礼。2023年那智山行者堂再興。熊野修験を150年ぶりに復興。

潮田洋一郎さん(うしおだ・よういちろう)
1953年東京生まれ。数寄者。東京大学、シカゴ大学卒業。LIXILグループ元CEO、元取締役会議長。大師会、光悦会評議員。著書に『数寄の真髄』ほか。今回の青岸渡寺「瀧寿庵」での茶会では席主を務める。

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年02月号

家庭画報 2026年02月号

撮影/本誌・坂本正行 取材・文/福井洋子 着付け/吉田アヤ ヘア&メイク/鈴木富美子〈アンベリール〉 撮影協力/那智山青岸渡寺 編集協力/東大人文・熊野プロジェクト

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