〔特集〕世界遺産「那智滝」を望む茶会 後鳥羽院熊野詣に思いを馳せて 紀伊半島の大自然に育まれた熊野信仰の聖地を舞台に、東京大学が新宮市と連携し、熊野三社、青岸渡寺等の協力を得て立ち上げた「東大人文・熊野プロジェクト」。その活動の一環として、このたび青岸渡寺の茶室「瀧寿庵」に関係者が集い、いにしえに思いを馳せる一会を催しました。
潮田洋一郎さん(数寄者)
髙木亮英さん(青岸渡寺住職)
松﨑照明さん(建築史家)
太田 泉フロランスさん(美術史家)
代点 木下華子さん(中世日本文学研究者)
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茶会の舞台となったのは、熊野那智大社に隣接する青岸渡寺の茶室「瀧寿庵」。茶庭から北に寺の三重塔と那智の大滝、南に太平洋を望むという無二の絶景に恵まれた空間です。長きにわたり公開されておらず、貴重な建築と庭園は未使用のまま時を経てきました。
那智の大滝は落差133メートルを誇る日本一の滝。熊野信仰の根底には常に自然への畏敬の念が流れており、断崖をまっすぐに落ちる滝の姿はその象徴として古来尊崇されてきた。熊野那智大社の別宮・飛瀧(ひろう)神社のご神体でもある。
2025年、春浅き2月の吉日に、その存在を再認識しようと、東京大学と熊野が共同で立ち上げた「東大人文・熊野プロジェクト」による茶会が開かれました。
左から席主で数寄者の潮田洋一郎さん、点前を担当する中世日本文学研究者の木下華子さん。正客の青岸渡寺住職の髙木亮英さん。連客は美術史家の太田 泉フロランスさんと建築史家の松﨑照明さん。瀧寿庵の庭から眼前に広がる熊野の雄大な山並みを望む。
青岸渡寺のご理解のもと、宗教、文学、建築等の専門家が集い、さらには東大出身で現代を代表する数寄者・潮田洋一郎さんが、道具組を担当。
潮田さんはこの日を迎えるにあたり、「プロジェクトにかかわるようになり、数年前に初めて熊野を訪れました。その後何度も訪ねていますが、熊野には何かが再生していく、甦りの地という感覚があります。いにしえの上皇たちがたびたびこの地を訪れたのも、おそらくそういう感覚を得るためだったのだろうと思います。以前、根津美術館にある国宝『那智瀧図』を前にしてお茶をしたことがありますが、まさか実際の大滝を拝して茶会を開くことになるとは思ってもみませんでした」といいます。
茶会は青岸渡寺副住職の髙木智英さんの法螺貝の音を合図に始まった。
「茶会というものは空間と道具がどう響き合うかが面白味の一つ。道具の中でも、私は強い掛物を掛けるのが自身の茶風だと思っていて、ずっと手もとにあって時折掛けてきたある書がこの会の核になります」とのこと。
日本文化への深い洞察を秘めた一期一会の茶が始まります。
太田 泉フロランスさん(おおた・いずみ・ふろらんす)沖縄県立芸術大学、芸術学専攻講師。専門は中世ヨーロッパ美術史。特に金細工工芸や、巡礼と美術の相関等に関心があり、サンティアゴ巡礼、熊野巡礼経験者。2024年度まで東大人文・熊野プロジェクト担当助教。
木下華子さん(きのした・はなこ)東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授。博士(文学)。専門は中世日本文学。『方丈記』に代表される鴨長明の文学や中世和歌を中心に研究。東大人文・熊野プロジェクトでは新宮や那智について講演。
松﨑照明さん(まつざき・てるあき)日本建築史意匠学(博士)。特に山岳信仰建築と茶室を中心に研究を進める。その関連で、羽黒、大峰修験などの峰入修行を行い、茶室調査、茶会へも参じる。東大人文・熊野プロジェクトには準備段階から協力。
髙木亮英さん(たかぎ・りょうえい)那智山生まれ。那智山青岸渡寺住職、大僧正。熊野修験正大先達。熊野大峰奥駈修行、葛城二十八宿行、那智四十八滝行、諸国霊山登拝、世界仏教聖地巡礼。2023年那智山行者堂再興。熊野修験を150年ぶりに復興。
潮田洋一郎さん(うしおだ・よういちろう)1953年東京生まれ。数寄者。東京大学、シカゴ大学卒業。LIXILグループ元CEO、元取締役会議長。大師会、光悦会評議員。著書に『数寄の真髄』ほか。今回の青岸渡寺「瀧寿庵」での茶会では席主を務める。
(次回へ続く。
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