
2025年12月10日、創設者アルフレッド・ノーベルの命日であるこの日、スウェーデンのストックホルム(平和賞のみノルウェーのオスロ)にてノーベル賞授賞式が開催されました。日本からは生理学・医学賞を受賞した大阪大学特別栄誉教授の坂口志文(しもん)氏と、化学賞を受賞した京都大学特別教授の北川 進氏が出席。120年以上の伝統を持つ壮麗な式典の模様は世界に配信されました。
ノーベル賞が栄誉ある賞であることは知っていても、アルフレッド・ノーベルが「ダイナマイトの発明者でノーベル賞の創設者」という以外にどんな顔を持っていたか、受賞者がどのように選考されるかを知る人は少ないのではないでしょうか。2023年のノーベル物理学賞選考委員長を務めたエヴァ・オルソン博士の来日講演と単独インタビューからわかった興味深い事実をご紹介します。
アルフレッド・ノーベル(1833~1896年)はスウェーデン生まれの発明家、化学者、エンジニア、実業家であり、生涯で355件もの特許を取得しました。そのなかで最も有名なものがダイナマイトです。17歳のときには母国語のスウェーデン語以外に英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語も話し、後にイタリア語も習得。1896年の時点で、20か国に90もの企業を持つ多国籍企業帝国を築いていました。
プライベートでは文学と愛犬のラブラドール・レトリバーとの散歩を好みましたが、海外を飛び回る仕事は多忙を極め、私生活と呼べる時間はごくわずか。そのため生涯を通して健康状態が優れなかったことが、ノーベル賞に生理学・医学賞を設けた理由といわれています。
アルフレッドの遺言をもとに生まれたノーベル賞は5つあり、物理学賞は「重要な発見または発明」、化学賞は「重要な発見または改良」、生理学・医学賞は「重要な発見」、文学賞は「理想的な方向へ向かう最も傑出した作品」、平和賞は「国家間の友愛のための努力」に授与されます。賞の授与を担当するのは、スウェーデン王立科学アカデミー(物理学賞と化学賞)、カロリンスカ研究所(生理学・医学賞)、スウェーデン・アカデミー(文学賞)、ノルウェーのノーベル委員会(平和賞)。
現在は、1968年にスウェーデン国立銀行が創設した「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞(いわゆるノーベル経済学賞)」も授与されている。
エヴァ・オルソン博士は1901年から続く由緒ある賞について、こう語ります。
「ノーベル賞が高く評価され続けているのは、ノーベルが掲げた『人類のために』という理念が今なお有効であり、国籍を問わないグローバルな賞であるのが大きな理由だといえます。
物理学賞について、アルフレッドの遺言には『物理学の分野で最も重要な発見または発明をした者に授与する』と書かれています。そのため、生涯功績賞ではありませんし、2番目に発見した人、より美しい実験、理論的に予測しただけで実験的に未検証のものは対象外です。必ずしも『最も優れた物理学者』が受賞するわけではありません。そして、選考内容は 50年間秘密とされています」
撮影/椙本裕子(エヴァ・オルソン博士ポートレート) 取材・文/清水千佳子 取材協力/スウェーデン大使館