名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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高市(たかいち)
高市首相は奈良県の出身です。奈良県には高市郡という地名があり、『日本書紀』にも登場する古い地名です。『和名類聚抄』には「多介知」とあり、古くは「たけち」と読んだようです。
高市郡の範囲は時代によって多少の変化はありますが、現在の高市郡(高取町・明日香村)と橿原市に大和高田市南部を合わせたあたりでした。数百基の古墳が見つかっているなど古代から栄えた地域で、大和国の国府も置かれていたといいます。
古代には高市県(たけちのあがた)と呼ばれ、ここを本拠とする高市県主(たけちのあがたぬし)という氏族がいました。
『日本書紀』には壬申の乱の際に大海人皇子(天武天皇)への神の加護を伝えた人物として高市許梅(たけちのこめ)という人物が登場するほか、天武天皇の長男は高市皇子であるなど、高市と天武天皇は関係が深かったようです。
さらにこの時代に歌人として知られた高市黒人の歌は『万葉集』に18首収められています。しかし、平安時代になると一族は衰退したらしく、歴史の表舞台からは消えていきます。
今では「高市」という名字は、奈良県には極めて少ないのです。
実は、現在「高市」の半数以上は愛媛県にあり、とくに松山市や東温市付近に集中しています。
そして、愛媛県にも「高市」地名があります。ルーツの地は伊予国越智郡高市郷(たかいち、現在の愛媛県今治市)で、やはり古くは「たけち」と読んだようです。ここには条里制の遺構がみられることから、この付近に伊予国府があったと推定されています。
また、「高市」を「たけち」と読むのは難読だったことから、この地名は「武市」とも書かれました。名字ではもっと読みやすく「武智」となり、やはり松山市付近に集中しています。四国に多い「武市」(たけち・たけいち)や「武知」という名字もここから漢字が変化したものです。
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森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
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