連載「絹糸に託すいのちの輝き」
1月「気配」
日本刺繡・文=草乃しずか(日本刺繡作家)新しい年の朝の光を浴びると、その瞬間を迎える喜びに目を閉じて、しばらくたたずみます。すると、どこからか春の気配。甘い香りに誘われて見渡すと、冬の凜とした冷たい空気の中に不似合いな、優しくて柔らかい小さな梅の花が一輪咲いているではありませんか。長い冬を耐えてきた蕾は、ほんのわずかな春の気配を感じ、勇気をもって開きました。私の心を震わせてくれたあの花を、布の上に咲かせてみたい……。
努力と忍耐の中で、やっとの思いで仕上げた作品の、布から浮かび上がった絹糸の美しさは、それまでの苦労をすべて消し去り、ほのかな優しい香りさえ感じさせます。私は再び目を閉じ、小さな草花の命に思いを寄せる豊かな心でいられるよう願い、新しい年の気配に胸を膨らませました。

冬を耐えた蕾はしっかりとした撚り糸で、ふっくらと咲いた花には、平糸を使いました。花の中心には、優しい香りが感じられるように、淡いピンクの相良繡(さがらぬ)いをちりばめました。
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