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歌舞伎俳優 中村鴈治郎さん×映画監督 李 相日さんインタビュー【前編】映画『国宝』がもたらしたもの

2025.12.18

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©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

〔特集〕その魅力は世界へ、未来へ 歌舞伎こそ、“国の宝” 三大義太夫狂言の通し上演が話題を集め、映画『国宝』が歴史的ヒットを記録するなど、今、ふたたび“歌舞伎”が世界的にも注目を浴びています。伝統を受け継ぎながら進化を続けるその普遍的な魅力をさまざまな角度から紐解きます。

特集「歌舞伎こそ、“国の宝”」の記事一覧はこちら>>>

『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)金閣寺』1月「大阪松竹座」で上演予定:天下を狙う松永大膳によって金閣寺に囚われた将軍の母と雪姫を、此下東吉が救う。桜の木に繋がれた雪姫が爪先で描いた鼠が動き出し、縄を喰い千切る場面も見どころ。写真は中村鴈治郎さん演じる松永大膳(2019年12月南座)。

『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)金閣寺』
〈2026年1月「大阪松竹座」で上演予定〉天下を狙う松永大膳によって金閣寺に囚われた将軍の母と雪姫を、此下東吉が救う。桜の木に繋がれた雪姫が爪先で描いた鼠が動き出し、縄を喰い千切る場面も見どころ。写真は中村鴈治郎さん演じる松永大膳(2019年12月南座)。

映画『国宝』がもたらしたもの

歌舞伎俳優:中村鴈治郎 さん
監督:李 相日 さん


──女方としての才能を見出され歌舞伎と向き合う俳優の一代記を壮大なスケールで描き出した映画『国宝』。公開以来多くの感動を呼び、邦画実写作品の歴代興行収入第1位が目前に迫っています(2025年10月末時点)。中村鴈治郎さんは原作者の吉田修一さんが取材を始めた時から、この作品にかかわってきました。

中村鴈治郎(以下、鴈治郎) 吉田修一さんが歌舞伎を題材に小説を書きたいと僕のところにみえたのが始まりです。そこで、黒衣の格好をしていれば楽屋や舞台裏でも目立たないだろうと着てもらって。地方公演も含め、のべ3年くらいにわたっていらしていたかな。でも僕は新聞で連載が始まるまでどんな物語になるか全く知りませんでしたし、まして監督がその前から歌舞伎をモチーフに映画を作りたいと吉田さんと話していたとは全く知らなかった。

描きたかったのは女方の“背景”にあるもの

李 相日(以下、李) 歌舞伎の女方の映画を撮ってみたいという思いはずっと持っていました。映像資料などに残っている女方さんや、実際に舞台で拝見した女方さん。その中には、舞台を降りた後の背景というか私生活が見えない方がいるじゃないですか。その生き様に興味を持ったのが始まりです。

鴈治郎 確かに原作ありきではあるけれど、もしこれが(男性を演じる)立役(たちやく)が主人公だったら、こんなに皆さんを惹きつけるストーリーにはなっていなかったかもしれない。とにかく僕にしてみたら、小説ができ上がってしばらくしたら監督が、これを映画にしたい、と。それも歌舞伎役者ではなく(映像の)俳優さんでいく。ついては歌舞伎指導をお願いしたいのだ、と。それからが大変でした。吉沢 亮くんも横浜流星くんも、まず歩き方から始め、日本舞踊の稽古、台詞に所作と、歌舞伎役者に見えるよう、一年半以上、稽古の日々でした。彼らは本当によく頑張ったと思います。

 あれは二人だったのがよかったのかもしれません。映画のなかの喜久雄と俊介と同じように、お互いの存在があることで切磋琢磨できたし、負けられないという思いもあったんじゃないかな。

どんな血筋より大切な「芸」を極めていく

──任侠の家から歌舞伎の世界へやって来た喜久雄(吉沢 亮さん)と、名門の御曹司である俊介(横浜流星さん)。映画のなかの二人の姿を通して観客は、「血か、芸か」を問いながら、ストーリーに引き込まれていきます。

鴈治郎 血か芸か、といわれたら、やっぱり、芸なんです。もちろん、その家その親のもとで生まれたからこそ滲み出るもの……「血」が大切な時もあるかもしれない。でも、芸がなくちゃ始まらない。今、歌舞伎役者は約300人いるそうですが、そのうち養成所の出身者が約100名。直に入門したお弟子さんなどを加えると歌舞伎の家の生まれでない一般家庭からの人は半分以上じゃないかな。いわゆる血筋でなくても主役をやっている方も何人もあります。

 喜久雄が任侠の家の跡取りだったというのは、原作の吉田修一さんの際立った発明だと思いますね。喜久雄は歌舞伎の世界ではアウトサイダーだけれど、あのまま任侠の世界が続いていたら、そこでは「血」のある本流だったわけですから。

鴈治郎 あのまま父親が死ななかったら、喜久雄はどうなっていたのかな。芸の道に進まなかったとしても、踊り続けることはできるわけだから。

 しかも一人息子ですからね。ちょっと見てみたい気もします。

PROFILE
中村鴈治郎(なかむら・がんじろう)
1959年生まれ。四代目坂田藤十郎の長男。67年11月歌舞伎座『紅こう梅曽我(ばいそが)』の一萬丸で中村智太郎を名のり初舞台。95年1月中座『封印切(ふういんきり)』の忠兵衛ほかで五代目中村翫雀を襲名。2015年1月・2月大阪松竹座『廓文章(くるわぶんしょう)』の伊左衛門ほかで四代目中村鴈治郎を襲名。

PROFILE
李 相日(リ・サンイル)
1974年生まれ。2000年『青 chong』で監督デビュー。10年の『悪人』では国内の映画賞を総なめにし、海外からも高い評価を得た。ほかに『フラガール』(06年)、『許されざる者』(13年)、『怒り』(16年)、『流浪の月』(22年)など、その作品は常に注目を集めている。

映画『国宝』

映画『国宝』は2025年6月公開。現在も全国・東宝系映画館などにて上映中。

映画『国宝』は2025年6月公開。現在も全国・東宝系映画館などにて上映中。

【あらすじ】長崎の任侠一門に生まれた喜久雄(吉沢 亮)は、抗争により父(永瀬正敏)を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺 謙)に引き取られ、歌舞伎の世界へ。そこで、半二郎の実の息子として生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)と出会う。生い立ちも才能も異なる二人は、ライバルとして互いに高め合いながら芸の道を進んでいく。

吉田修一さんによる小説『国宝』。2017年~18年に朝日新聞に連載され、18年に朝日新聞出版より刊行。2025年10月末時点で累計200万部を突破している。

吉田修一さんによる小説『国宝』。2017年~18年に朝日新聞に連載され、18年に朝日新聞出版より刊行。2025年10月末時点で累計200万部を突破している。

©吉田修一/朝日新聞出版
©2025映画「国宝」製作委員会

(中編へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年01月号

家庭画報 2026年01月号

撮影/本誌・大見謝星斗 取材・文/清水井朋子 地図制作/尾黒ケンジ 舞台写真・協力/松竹

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