連載「季節の香りを聞く」12月〈志野袋〉雪持笹
冬月香(とうげつこう)
朝ぼらけ有明の月と見るまでに
吉野の里に降れる白雪古今和歌集──坂上是則──
写真下/本誌・大見謝星斗
選・文=蜂谷宗苾(志野流香道 第21世家元)若い頃、奈良の山中に身を置いておりました。毎朝4時に本堂の樒(しきみ)の水を取り替え、ご老師様を坐して待ちます。
いずれ、遠くの方から二枚歯の下駄の音が鳴り響いてきますが、何か悪戯をして叱られる訳でもないのに心拍数が上がるのは、子供の頃悪さばかりしてきたせいでしょう。
坐禅から粥座へ。
白み始めた空には雪がちらつき、寒気に浮かぶ冴え冴えとした冬の月がこちらを見下ろしています。
お香は、霜・雪・氷・月の4種、合計10炷、五感で冬季を感じ取ります。是則の言う月と見違えるほど降り注ぐ雪の光は、詩歌を通し千年の時を超え、私たちの心まで照らしてくれます。
「月は月として認識しなければ存在しない」とインドの思想家タゴールは言いました。月を原子の塊と見ず、いつまでも私たちの心に美しい姿のまま残り続けますように。
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