名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
連載一覧はこちら>>
難読名字:主税(ちから)
「主税」と書いて「ちから」と読みます。
漢字と読み方が全く対応していない難読名字なのですが、正しく読むことのできる人は意外と多いのではないでしょうか。というのも、名字ではなく下の名前として知っている人がいると思われるからです。
「主税」という言葉は今でも使われています。国には「主税局」という部局があり、かつては大蔵省、現在は財務省の内部部局のひとつです。また、東京都にも主税局があり、いずれも税金関係を管轄する部局となっています。もちろん、いずれも今では「しゅぜい」と読みます。
そもそも、「主税」という言葉はかなり古いものです。
奈良時代、律令制度での税金関係の役所に主税寮(しゅぜいりょう)という官司(部署)がありました。主税寮は地方からの租税の管理をしており、この「主税寮」の和訓が「ちからのつかさ」だったことから、「主税」の部分を「ちから」と読むのです。
名字としての「主税」は、この役所に関係した人が名乗ったものだと思われます。
時代が下ると、武士が実名(諱、いみな)とは別に、かつての官職名を通称として名乗ることが一般化しました。衛門府に因む「~左衛門」「~右衛門」や兵衛府に因む「~兵衛」などが代表的なものです。江戸時代には農民もこうした名前を名乗っています。
こうした通称は、その本来の役職とは全く関係なく名乗るもので、主税寮に因む「主税(ちから)」も、主税寮とは関係なく広く通称名として使われました。有名なのは「忠臣蔵」に登場する、大星由良之助(大石内蔵助)の長男主税(ちから、諱は良金)です。因みに、大石内蔵助の「内蔵」も、内蔵寮に因んでいます。
従って、昔の人にとっては「主税=ちから」というのは難読ではなかったと思います。
現在は、福岡県と宮崎県に集中しています。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)