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歴史の変遷で生まれた名字「古舘」。ルーツは中世日本の小城

2025.12.18

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墨アート製作/越智まみ

名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。連載一覧はこちら>>

古舘(ふるたち)

「古舘」という名字は見慣れたものだと思います。実際にはそれ程メジャーな名字ではないのですが、フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんや俳優の古舘寛治さんが有名なため、よく目にします。

さて、「古舘」とは文字通り「古い舘」のことでしょう。

「舘」は「館」の異体字で、意味は全く同じです。「舘」という漢字を使った名字は東北でよく見られます。


東北では小規模な城のことを「たち」「たて」といい、「館」や「舘」という漢字をあてました。つまり、「古舘」とは使用されなくなった古い小城のことです。

中世には、各地にたくさんの城がありました。

ただ、城とはいっても現代の人がイメージするような天守閣を備えた堂々としたものではありません。あれは戦国時代後期以降のもので、中世の城は「防御に徹した館」という感じの小さなものでした。

そもそも、中世には集落ごとに領主がおり、こうした小領主達は、平時は村の館に住み、戦になると山にある城(たち)に籠って戦ったのです。

応仁の乱のような大乱を除けば、戦国時代のように何千、何万もの武士が会して戦うわけでなく、地方ではせいぜい数十人とか百人規模の小競り合いが中心でした。

従って「たち」の規模も小さく、集落3~4個に1つの城郭があったともいわれます。

こうした小領主達は時代が進むにつれて離合集散を繰り返し、戦国時代後半になると国単位で支配するような大名に集約されていきました。そして、江戸時代初めには一国一城令によって、原則1国につき城は1つとなりました。

その過程で、自らの「たち」に拠っていた小領主達は、「たち」を出て大きな城のもとに広がる城下町に住むようになり、次第に「たち」は打ち捨てられていきました。

「古舘」とは、こうした使われなくなった「たち」のことなのです。

現在、「古舘」「古館」という名字は岩手県に集中しており、「古舘」の方がやや多くなっています。ただし、読み方は「ふるだて」が多く、「ふるたち」は三陸地方にわずかしかいません。

ところが「古舘」は佐賀県唐津市付近にもあります。ここでは「古館」は少なく、読み方もほとんどが「ふるたち」です。

従って、「ふるだて」と読む「古舘」さんは東北、「ふるたち」と読む「古舘」さんは佐賀県がルーツの可能性が高いのです。
森岡浩/Hiroshi Morioka
姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。

墨アート製作 書家・越智まみ(https://esprit-de-mami.com/

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