名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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難読名字:黒木(くろき・くろぎ)
「黒木」は数の上からはごく普通の名字です。とはいうものの、意外と周りにはいないのではないでしょうか。
実はこれだけメジャーな名字にもかかわらず、「黒木」の半数以上が宮崎県内にあるのです。次いで、周囲の鹿児島県、熊本県、大分県に多く、九州以外ではあまり見られません。従って、九州以外の方はみたことがないという人も多いと思います。
そして、宮崎県では圧倒的な最多名字です(2位は「甲斐」)。
都道府県で一番多い名字は、沖縄県をのぞくと、「
佐藤」「
鈴木」「
山本」「
田中」「
渡辺」「
中村」「
小林」といった全国ランキングでベストテンに入る名字がほとんどです。それ以外の名字がトップとなっているのは、青森県の「
工藤」、香川県の「
大西」、宮崎県の「黒木」くらいしかありません。
しかも「工藤」や「大西」は全国ランキングで100位以内に入っているかなりメジャーな名字であるのに対し、「黒木」は300位以下です。この順位の名字が県で1位になっているというのはかなり突出しているといえます。
では、「黒木」のルーツは何でしょうか。
「黒木」の由来は文字通り「黒い木」でしょう。とはいっても、本当に黒(black)い木というものはありません。実は、古い時代では明るいことを「白」と表現し、反対に暗いことを「黒」といったのです。
皮を剥いで明るい色になった木を今でも「白木」というように、皮のついたままの丸太は「黒木」といいました。
また針葉樹がびっしりと茂った山は黒々と見えたことから、針葉樹のことも「黒木」といったのです。宮崎県では針葉樹が多く、それらは「黒木」でした。そして、それを皮のついたままの丸太にしたものも「黒木」なのです。
江戸時代、木材は日向国の特産品で、山に生えている針葉樹(黒木)は切り出されて、皮のついた丸太(黒木)のまま大坂や江戸に出荷されました。
東大寺大仏殿の再建でも日向の木材が使われているなど、「黒木」とは日向国の経済を支えた貴重な資源で、大きな富をもたらしたのです。
そのため、「黒木」は名字として多くの人が名乗り、今でも県で一番多い名字となっているのでしょう。
ちなみに、読み方は「くろき」と「くろぎ」の2通りがあり、宮崎県内では両方とも多くなっています。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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