名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも？知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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難読名字：益子（ましこ・ますこ）
「益子」と書いて真っ先にどういう読み方が浮かんだでしょうか。
芸人コンビU字工事の益子卓郎さんは「ましこ・たくろう」です。一方、
元バレーボール選手の益子直美さんは「ますこ・なおみ」と読みます。地名では栃木県に陶芸で有名な益子町があります。ここは「ましこ」と読むのが正式です。
栃木県・真岡鐵道真岡線の益子駅
名字としての「益子」は、栃木県の益子がルーツです。
ここは古くからある地名で、昔は「猿子」「増子」とも書かれました。「猿」は古語で「ましら」といいますから、古くからずっと「ましこ」と呼ばれていたようです。従って、名字の「益子」も「ましこ」と読むのが本来の読み方です。
ここには紀氏の末裔である益子（ましこ）氏がおり、鎌倉時代初めに源頼朝が奥州藤原氏を攻めた際に、益子正重（『吾妻鏡』には紀権守として登場する）が参加しているなど、今の栃木県北部を代表する氏族の1つでした。
以後、「益子」という名字は栃木県を中心に東日本各地に広がっていきます。
ルーツの地に近い栃木県北部と茨城県北部に多く、とくに茨城県大子町に集中しています。一方、東北北部や、東海・北陸以西には少なく、西日本では「益子」はかなり珍しい名字といえます。
関東付近に集中している「益子」ですが、地元栃木県や益子町に近い茨城県では「益子」が「ましこ」と読むというのは常識となっているものの、それ以外の地域の人にとっては「益子」を「ましこ」と読むのは難読です。そのため、「益」という漢字の読み方に従って「ますこ」と読む人が増えてきました。
現在では、栃木県と茨城県では圧倒的に「ましこ」と読む一方、それ以外の関東各都県や東北南部では「ますこ」が多くなっています。
ですから、栃木県出身の益子卓郎さんは「ましこ」と読み、東京都出身の益子直美さんは「ますこ」と読むのです。
全国を合計すると、7割ほどが「ましこ」と読みます。
森岡浩／Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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