久々の逢瀬の嬉しさに、連れ舞に興じる二人。美しい舞台美術や衣裳と相まって、平安王朝絵巻のような麗しさ。

恋しい人にやっと会えたのに、懐妊した光源氏の妻・葵の上への抑えていた嫉妬心が溢れ出し、そして……。

忙しさゆえの疎遠を詫び、六条御息所の恨み言にも耳を傾けていた光源氏だが、やがて堪えかねて……。
「歌舞伎の中で育った人間だから作れるものがあると思っています」──玉三郎
──染五郎さんが目指していらっしゃる俳優像を教えてください。染五郎 もちろん、どんなお役もできるようにはなりたいですが、ここ数年は、それよりも高麗屋がやってきたものを研究して極めたいという思いが強まっていて。なので、何でもかんでもやればいいということではないんだなと最近は感じています。いただいたお役をしっかり勤めながら、最終的には“高麗屋の役者”に行き着きたいです。
玉三郎 私が24、5歳の頃に、杉村春子さんにいわれた言葉を思い出しますね。『マクベス』の稽古で通っていた松竹の稽古場の廊下で、杉村さんがすれ違い様に「マクベス夫人をなさるんですってね」と話しかけてくださったんです。そのときに「私もいろいろやったわ。お若いんだから、何でもおやりなさいね。でもねえ、何でもやりゃいいってもんじゃないのよ、それだけは忘れないでね」とおっしゃって。それと同じことだと思います。私自身は、今後は作るほうにもさらに力を入れたいですね。歌舞伎の中で育った人間だから作れるものがあると思うし、彼のように作る側もやりたい人の参考になればと考えています。
──『源氏物語 六条御息所の巻』のシネマ歌舞伎も手がけられている玉三郎さん。最後に、改めてシネマ歌舞伎ならではの見どころをお聞かせいただけますか。玉三郎 それはやっぱり、染五郎くんのアップでしょう(笑)。
染五郎 えっ、そんなにアップが!?
玉三郎 まあ、実際はそこまで寄ってはいないかな(笑)。でも、一番前の席より近い距離で、俳優の表情や心の動きを味わえるのは確かです。
染五郎 やっぱりそこが、シネマ歌舞伎ならではのところなんでしょうね。お客様には、歌舞伎座や舞台上の空気も感じていただきつつ、生まれ変わった映画版の『源氏物語 六条御息所の巻』として、楽しんでいただけたら嬉しいです。
坂東玉三郎(ばんどう・たまさぶろう) 現代歌舞伎界を代表する女方。屋号は大和屋。1964年に五代目坂東玉三郎を襲名。古典作品の数々の大役を継承する一方、泉鏡花作品などを舞台化。2012年人間国宝に認定。13年仏芸術文化勲章最高章「コマンドゥール」、14年紫綬褒章、16年恩賜賞・日本芸術院賞、19年高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。19年文化功労者に選出。
市川染五郎(いちかわ・そめごろう)2005年東京都生まれ。四代目松本金太郎を経て、18年に八代目市川染五郎を襲名。屋号は高麗屋。若手花形として注目を集め、25年4月には新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』で主演を勤めた。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など映像作品にも出演。26年5月には主演舞台『ハムレット』が控える。
シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』
『源氏物語』が原作の昨年の人気作を、高性能カメラで撮影。編集を経てついにスクリーンに登場する。時は平安の世。光源氏(染五郎)の子を宿した葵の上(中村時蔵)は謎の病に臥していた。一方、光源氏は年上の美しき愛人・六条御息所(玉三郎)のもとを久々に訪れるが……。
2025年9月26日(金)全国公開 製作・配給/松竹
脚本/竹柴潤一 監修/坂東玉三郎 演出/今井豊茂
出演/坂東玉三郎 市川染五郎 中村時蔵 中村歌女之丞 中村亀鶴 坂東彌十郎 中村萬壽ほか(令和6年10月歌舞伎座公演)
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