“源氏物語”スペシャル対談 女方の最高峰と気鋭の若手歌舞伎を生きる(前編)坂東玉三郎さんと市川染五郎さんの共演で、『源氏物語』の「葵」の巻を題材に、六条御息所の光源氏への愛執と嫉妬を凄艶に描き出した『源氏物語 六条御息所の巻』。昨年10月に歌舞伎座で初演され、大きな話題を呼んだ人気作が、シネマ歌舞伎となって甦ります。公開に先駆けて、お二人の特別対談を美しい舞台写真とともにお届けします。
美しき二人が紡ぐ、平安の世の恋物語──

高い身分と教養を持つ六条御息所のもとを久々に訪れた光源氏。二人は再会を喜び、花見などに興じるが……。
坂東玉三郎(ばんどう・たまさぶろう)現代歌舞伎界を代表する女方。屋号は大和屋。1964年に五代目坂東玉三郎を襲名。古典作品の数々の大役を継承する一方、泉鏡花作品などを舞台化。2012年人間国宝に認定。13年仏芸術文化勲章最高章「コマンドゥール」、14年紫綬褒章、16年恩賜賞・日本芸術院賞、19年高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。19年文化功労者に選出。
市川染五郎(いちかわ・そめごろう)2005年東京都生まれ。四代目松本金太郎を経て、18年に八代目市川染五郎を襲名。屋号は高麗屋。若手花形として注目を集め、25年4月には新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』で主演を勤めた。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など映像作品にも出演。26年5月には主演舞台『ハムレット』が控える。
──平安王朝絵巻さながらに美しく、また女性としては身につまされる『源氏物語 六条御息所の巻』でした。お客様の熱視線も格別だったと思います。染五郎 その分、日々プレッシャーを感じていました。光源氏の登場は、幕が開いてから約30分後。お客様の「まだ出てこないのか」という期待値が限界まで上がってから出るという恐ろしい登場の仕方だったので(笑)。
玉三郎 そうでしたね(笑)。でも、よくやっていました。だから、一緒にできて本当によかったなと思っています。当時はまだ19歳だったでしょ?
「出会った人を包み込んでしまうような、おおらかさを意識しつつ演じました」──染五郎
染五郎 はい。今でも正直、お客様が思い描く光源氏像にハマっていたのかな?という不安はありますが、玉三郎のお兄様がお稽古で教えてくださった、出会った人を包み込んでしまうようなおおらかさを第一に意識しつつ、演じていました。それでいて六条御息所に対しては、ちょっと距離を置きたくなるような気持ちも持ちながら。
「六条御息所の気持ちは、一つの線として脈々と続いているのだと思います」──玉三郎
玉三郎 その“六条御息所に会いに来たいけれども、愚痴をいわれるその気分が嫌だから来られない”という気持ちは、ちゃんと出ていましたよ。そういった表情をなるべく抜いて撮ってもらったので、シネマ歌舞伎ではお客様にもより伝わると思います。それなのに、御息所は恨み言をいい募るんですから、そりゃ嫌われますよね(笑)。でも御息所の感情は、誰もがどこかしら持っているものだと思うし、御息所が望んで生霊になったわけでもない。そこが面白いですね。御息所は、こうなったのは宿世だというようなことをいって、後の巻にも出てくるんです。この人の気持ちは、一つの線として脈々と続いているのでしょうね。光源氏を取り巻く、いろいろな女の人たちの線の一つとして現れるのが、御息所なのだと思います。