友達になると全く見え方が違ってくる。他人事ではなくなっていく

交流のあるウクライナのバイオリニスト、イリア・ボンダレンコさん。坂本龍一さんがイリアに贈った曲をウクライナの廃墟と化した町で奏でる演奏はYouTube で見られる。
「ガザに何も物資が入ってこなくなって2か月以上経つので、栄養失調がひどくなっています。小麦粉が1袋10万円とか信じられない値段になっていて、どうやって生き延びているのか。みんな家族が誰かしら殺されているし、自分もいつ殺されるかわからない。家も爆撃で早々に破壊されている。『いつでも逃げられるよう荷物をまとめたところだ』って写真を送ってくれたりするのですが、彼らにはどこにも行き場がないんです。本当にもう行き場がない」
坂本さんの目は、話しながら遠くガザを見つめている。
「毎日沈んでいます。もう一人の自分がガザの日常の中にいますから。現地でネットが遮断される時期なんかもう本当に気が気じゃない。でも苦しいとかいっている場合ではないんですよね。苦しいのはあの人たちだから」
あの人たち──今回坂本さんにお願いして、そのSNSでのやりとりの一部を公開していただいた(下写真)。
ガザとのやりとりのSNSの画面。右2点は最初にやりとりを始めた24歳のAhmed。姪の写真をよく送ってくれる。その左は23 歳のSalama。危機が迫って「もうだめだと思う。死んだら許して」と書いている。
何キロも歩いて食料を調達しにいく、今度こそもうだめかもしれないと、切実な言葉が並ぶ。それに対する坂本さんの言葉も悲痛だ。ガザは坂本さんにとってもう「自分事」なのだ。世界で初めてリアルタイムで届く、虐殺、民族浄化の現場。「パラレルワールドのよう」と坂本さんは表現する。
「一人でもいいからパレスチナの人と友達になってほしい。全く見え方が違ってくると思うんです。私がそうでした。パレスチナ人って猫好きなんだとか、こんな料理作るんだなとか、その人の暮らしが見えてきて、どんどんどんどん他人事ではなくなっていく」
現在の日本の社会の状況をどう感じているかという問いに、坂本さんはじっと考えて答える。
「自分の世代で戦争が始まろうとしていて、今も着々と日本は戦争の準備をしているということが信じられない気持ちでいます。ああ来たか、本当に来るんだ、こうして戦争が始まるんだなって。この恐ろしい気配に本当にビクビクしながら生きています。
こんなふうに不安を利用されて人は排他的、差別的な考えに流れていくんだなとか、少し前なら『その考え方はまずいよ』って思えていたはずの思想を大勢が支持するようになっている。
何かの陰にすごく大きなことを潜ませるんですよね。耳触りのいいことの背後に恐ろしい思想が潜んでいたりする。そうやって人は取り込まれてしまう。
日本のアーティストが何もいわないことにもちょっとフラストレーションがあるんです。芸術は、この社会と切り離せない。世界で起きていることに反応していくのがアートの役割の一つでもあると思う。
このひどい現実に対して『殺すな』といえないアーティストではありたくないんです。人間として当たり前の感覚を持ち続けていたい」
※次回は、戦争体験者を訪ね歩き絵本を作った、堀川理万子さん(画家・絵本作家)のインタビューをお届けします。