連載「いのちに想う」8月 巣穴
ホンドギツネ
文=小林朋道(公立鳥取環境大学学長・動物行動学者)鳥取環境大学のキャンパスにはヤギの広い放牧地がある。その周囲の南側の斜面に、なんとホンドギツネが巣穴をつくった。もう10年以上前のことだ。
8月のある夜、私が帰宅するために車に乗ってキャンパス内の道路を進んでいると、前方に2匹の子ギツネがちょこんと座ってこっちを見ているではないか。
私は車を止めライトを持ち、ゆっくり子ギツネに近づいていった。道路からどいてもらうためだ。
すると2匹は怖がったり慌てたりする様子もなく「おじさん、ついておいでよ」みたいに、ときどき私のほうを振り返りながら移動し、ヤギの放牧地に入っていった。
こうなると、私の習性からいって、ついて行かないわけにはいかない。そして2匹が歩くのをやめて座り込んだその場所に、巣穴の入口があった。
子ギツネたちは「これが私たちの巣穴だよ」とでも言うかのように私を見た。私は生まれてはじめて野生の子ギツネと巣穴をゆっくり見た。8月はキツネの子が巣穴から出て活発に活動する時期なのだ。
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