連載「季節の香りを聞く」7月〈志野袋〉朝顔
空蟬香(うつせみこう)
空蟬の身をかへてける木のもとに
猶人がらのなつかしきかな源氏物語──紫式部──
選・文=蜂谷宗苾(志野流香道 第21世家元)志野流の組香は、230以上分類されておりますが、源氏物語に因んだものだけで「源氏香」「胡蝶香」「宇治香」など15種もあります。
「空蟬香」は、空蟬、源氏、小君、軒端荻と名付けたお香を用意し、空蟬と光君の複雑に行き来する心情を香りを用いて時系列で表現していきます。
それまで上流の姫君しか知らなかった光君、雨夜の品定めで中流階級の女の良さを聞かされ、年老いた男の後妻になっていた空蟬への恋心が燃え上がっていく。ある日、方違(かたたがえ)を理由に空蟬の屋敷に滞在し寝所に忍び寄りますが、その気配に気付いた彼女は、蟬の脱け殻のような薄い衣を落として部屋を出ていくのです。
儚い残香が宿っていたであろう薄衣。光君の想いは余計に募ったことでしょう。その後朝の歌を記録に書き付けます。
~志野流組香 四十組-二十八番~

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