フラットな状態に戻り自然への謙虚な心を育む
今回いけばなの体験を経て、二階堂さんは、どんな日本文化の扉を開いたのでしょう。
桃山時代の書院様式の美しさを今に伝える入母屋造りの月光殿。

華道家元池坊が所有する六曲一双の「立花図屛風」(写真は左隻)。背後の絵画といけばなを一体として鑑賞する、狩野派の絵師による作品。
二階堂 月光殿で花を生ける過程で、途中で水盤の中の剣山から花をすべて抜いて、一度振り出しに戻ることができたことで、いけばなの自由な世界を感じました。
池坊 思い切ってゼロに戻ることは、二階堂さんらしい決断力でした。いけばなは、命ある生の花を扱いますので、“時”の限りがある存在です。形が消えることで、常にフラットに戻っていくことが華道の大きな魅力の一つではないでしょうか。
二階堂 植物と調和して、美しく生けたいという自我やプライドなど余計なものを振り落としていく作業なのだと感じました。
池坊 今日、二階堂さんがぺんぺん草に心が動いたように、雑草がいじらしいなと思った頃合いで、お花の道に改めて足を踏み入れてみるといいかもしれませんね。
二階堂 明日からは、雑草から目が離せなくなるかもしれません(笑)。今日の体験は、余計な雑念を交えず、目の前の花を生けることだけに集中するメディテーションタイムでした。植物を愛でながら、自分も自然の一部だという謙虚な気持ちを教えていただく機会になりました。本日は、ありがとうございました。
小手毬を軸に、鈴形の花が愛らしいサンダーソニアをリズミカルに配し、都忘れを中心に据えて。「躍動的な広がりを感じます。根元がまとまるといっそうよくなりますよ」。そう言って池坊さんが、隙間に花の蕾をひと挿し。「植物の命の循環や成長する時間が感じられるようです」と二階堂さん。

都忘れの花色を映したような縞の夏大島に、郷里と縁ある城間栄順作の紅型の名古屋帯を涼やかにコーディネート。どちらも仕立て下ろしとなる、ご自身のひと揃い。彩り豊かな花材を引き立てるため、あえてトーンを控えたそう。茶籠に更紗の古布をアレンジした巾着が、装いに可憐な趣を添えて。
二階堂ふみ(にかいどう・ふみ)俳優。1994年、沖縄県出身。2011年に映画『ヒミズ』で第68回ヴェネチア国際映画祭において日本人初となる最優秀新人賞を受賞する。2024年『SHOGUN 将軍』で落葉の方を演じる。2025年夏に公開予定の日英合作映画『遠い山なみの光』では、物語の重要な鍵を握る役を演じる。