名字365 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を毎日紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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珍しい名字:幸福(こうふく)
鹿児島県と兵庫県に多い名字で、文字通り「こうふく」と読みます。とても縁起のいい名字ですが、鹿児島県の「幸福」には深い由来があるといいます。
「幸福」は鹿児島県の中でも旧鹿児島郡伊敷村(現在の鹿児島市伊敷・皆与志町付近)に集中しています。
江戸時代、薩摩藩は一向宗(浄土真宗)を禁止していました。これは、戦国時代に加賀の一向一揆が大名をも倒す実力を持っていたことや、織田信長と激しく対立した石山本願寺のことなどが背景にあるようです。
島津氏は一向宗が力を持つことを恐れて、戦国時代から一向宗を弾圧していました。そして関ヶ原合戦後も国替えがなかったため、薩摩藩では幕末まで300年間にわたって一向宗の禁止が続いたのです。
しかし、こうした宗教は弾圧されても滅びることはありませんでした。
キリスト教に対する厳しい禁教令が出ていたにもかかわらず、長崎県各地には潜伏キリシタンや隠れキリシタンがいたように、薩摩藩でもひそかに浄土真宗を信仰する「隠れ念仏」という人がいたのです。
伊敷村の隠れ念仏の人達は、明治維新後に浄土真宗が解禁されると、幸せな未来が訪れるよう、新しい概念である「幸福」をあえて名字につけたと伝えています。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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