カルチャー&ホビー

京都・銀閣寺と志野流香道の500年 志野流第二十一世家元継承式に寄せて

2025.05.15

  • facebook
  • line
  • twitter

【香り文化の未来へ】

自らに向かうこと(談=蜂谷宗玄)

蜂谷宗玄(はちや そうげん)・1939年、志野流第十九代幽求斎宗由家元の嫡男として生まれる。戦後の厳しい環境下において研鑽を積み、大学卒業後は歴代家元に倣い、岐阜県の正眼僧堂にて修行。妙心寺派管長梶浦逸外老師より斎号「幽光斎」、宗名「宗玄」を拝受。87年、志野流二十代家元を継承。

蜂谷宗玄(はちや そうげん)・1939年、志野流第十九代幽求斎宗由家元の嫡男として生まれる。戦後の厳しい環境下において研鑽を積み、大学卒業後は歴代家元に倣い、岐阜県の正眼僧堂にて修行。妙心寺派管長梶浦逸外老師より斎号「幽光斎」、宗名「宗玄」を拝受。87年、志野流二十代家元を継承。

「絶え間なく研鑽を積むことこそが家元の務め」

志野流は室町8代将軍足利義政公の同朋衆(どうぼうしゅう)であった志野宗信を流祖とし、その精神と作法を「香の道」として現代に至るまで絶えることなく継承してきました。

香道は、沈水香木(「じんすいこうぼく)のほのかな香りを意識して「聞く」ことを旨といたします。ただそこにある匂いを無意識に嗅ぐのではなく、香木の内側にある香りに耳を傾けるように集中するのです。そのためには、日々の研鑽こそがすべてであり、自身の内側と向かい合うことが大切になります。
 
とはいえ、香木の香りというものは美しく安らかなものですから、しかめ面をして向かい合うのではなく、無心に香りを楽しみ味わうことこそが聞香のあるべき姿といえましょう。


590年前、義政公がご活躍された時代は戦乱の大変な世でありました。醜き奪い合いの世界から、平穏な世界を希求し、東山殿を舞台に理想の日々を実現しようとされた公の思いは、香道の中に生きています。

また少し、世界が不穏な気配を漂わせる現代において、香道の精神は、個々の心身をすこやかに保つための一つの解決法となるのではないかと考えております。

このたび、銀閣寺東求堂内にて、香道の道統を長男の宗苾に継承いたしました。私が父宗由(そうゆう)の逝去により家元を継いだのは49歳のときです。息子も今年50になるということですから、自身と同じ年頃であったのかと感慨深く思います。

父亡きあと、私は高弟たちに支えられながら、香道の伝統を守るお役目を果たしてきました。宗苾には、父の私がこの世にいる限り伝えられることは伝え続けたい。

家元といえども日々学ぶことを怠らず、ストイックに香木に対峙することこそがこの道の真髄です。さらに研鑽を積み、自身と向かい合ってほしいと激励する次第です。

義政公と父に誓う(談=蜂谷宗苾)

蜂谷宗苾(はちや そうひつ)・1975年、志野流第二十代幽光斎宗玄家元の嫡男として生まれる。幼稚園から始めたサッカーを大学、社会人リーグまで続ける。25歳の時脳腫瘍で生死の境を彷徨い、翌年禅寺に入る。文化庁海外交流使として世界各地で香道を広め伝え、25年、志野流二十一代家元を継承。

蜂谷宗苾(はちや そうひつ)・1975年、志野流第二十代幽光斎宗玄家元の嫡男として生まれる。幼稚園から始めたサッカーを大学、社会人リーグまで続ける。25歳の時脳腫瘍で生死の境を彷徨い、翌年禅寺に入る。文化庁海外交流使として世界各地で香道を広め伝え、25年、志野流二十一代家元を継承。

「500年の歴史を次世代へ伝えることが私の役目」

このたびの継承式に際し、父宗玄が見守る中、義政公に香を捧げたのですが、実は献香式の手前を務めるのはこれが初めてではありませんでした。近年のコロナの影響や高齢の父の体調などを考慮して、数年前から代役を務めることが少しずつ増えてきていました。

初めてその役を果たしたのは上賀茂神社での献香式でした。神事が始まると、何故か突然涙が溢れてきて、自分でも驚いてしまいました。ちょうどコロナ禍の時期でしたから、参列者も少なく、その姿を人様に見せることは免れましたが、明らかに志野流500年の重み、歴代家元20人の思いが肩に乗るのを感じました。

それまで何十年も香を献じる父の姿を見てきましたし、後見役として間近に控えてきたことも数えきれません。献香の手前については、父の背後で所作を見てきて、肩や背中の動きだけで今何をしているかわかるほど、気がつけば私の身の内に染みついておりました。

ただ、父の座する場と私が控えていた場所は半畳ほども離れていなかったのに、香を献じる立場と後見役ではこれほど違いがあるのか。華奢な父はどんなときも弱音一つ吐かず、粛々と儀式に臨んでいましたが、それがこれほど大きいプレッシャーの中での行いだったのかと。家元を継ぐというリアルな重圧を感じたこのときを、私ははっきりと覚えています。

今改めて志野流香道の家元を継承して、本当に大切にすべきことは何かと考えています。初代から連綿と伝えられてきたこの道を後世へと正しく伝えるために何を為すか。

父が私が想像もつかない高みに到達しているように、自分もまた新たな時代とステージへと歩みを進めるために、歴代家元20人との時を超えた会話ができるよう、これからもさらに精進したいと思います。

撮影/本誌・坂本正行 取材・文/ふくいひろこ 撮影協力/東山慈照寺(銀閣寺)

  • facebook
  • line
  • twitter

12星座占い今日のわたし

全体ランキング&仕事、お金、愛情…
今日のあなたの運勢は?

2025 / 12 / 09

他の星座を見る

Keyword

注目キーワード

家庭画報ショッピングサロンのおすすめ
※外部サイト(家庭画報ショッピングサロン)に遷移します。 ※商品の購入には家庭画報ショッピングサロンの会員登録が必要です。

Pick up

注目記事
家庭画報ショッピングサロンのおすすめ
※外部サイト(家庭画報ショッピングサロン)に遷移します。 ※商品の購入には家庭画報ショッピングサロンの会員登録が必要です。
12星座占い今日のわたし

全体ランキング&仕事、お金、愛情…
今日のあなたの運勢は?

2025 / 12 / 09

他の星座を見る