京都・銀閣寺と志野流香道の500年　志野流第二十一世家元継承式に寄せて

東山文化時代、足利義政を中心に、茶・花・香などの芸道がいっそう発展しました。その義政公の山荘であった東山慈照寺（銀閣寺）にて、初代よりゆかり深き志野流香道家元の継承式が執り行われました。

義政公の御前にて

家元継承式に臨むため、威儀を正し、本堂の廊下を渡る蜂谷宗玄さんと宗苾さん。廊下の先には義政公が祀られる東求堂がある。本堂前の砂盛は、銀閣寺の見どころの一つとされる白川砂を波状に整えた「銀沙灘（ぎんしゃだん）」。

令和7（2025）年3月18日、20代蜂谷宗玄さんから長男の宗苾さんへ、志野流香道の家元が引き継がれました。

志野流は、室町幕府8代将軍・足利義政の同朋衆（どうぼうしゅう・将軍に仕え、雑務や諸芸能に従事した人々）であった志野宗信（しのそうしん）によって興された香道の流派。

継承式は志野流香道発祥の地である銀閣寺の東求堂（とうぐどう）内にて、宗玄さんと21代家元となった宗苾さんが二人きりで執り行う非公開の形式がとられました。流祖・志野宗信から連綿と受け継がれてきた香道の伝統が、また新しい世代へと継がれたのです。

（右）蜂谷宗玄（そはちやうげん・志野流香道 第二十世家元）・（左）蜂谷宗苾（はちやそうひつ・志野流香道 第二十一世家元）
銀閣寺東求堂内で行われた志野流香道の家元継承式。前家元の蜂谷宗玄さんが見守る中、新家元の蜂谷宗苾さんが足利義政公に香を献じた（写真は継承式に先立って行われた予行演習を特別に撮影させていただいたものです）。

「銀閣寺」の名で知られる慈照寺（じしょうじ）の歴史は、文明14（1482）年に足利義政が造営した東山殿に始まります。文明5年にすでに将軍職を辞していた義政が自らの隠居の地とした山荘で、義政亡き後はその遺命により禅寺となりました。

「銀閣」と呼ばれる観音殿と、持仏堂の「東求堂」は、創建当初から伝わる貴重な建築です。銀閣は、義政の祖父にあたる3代将軍義満が造営した鹿苑寺（ろくおんじ）の金閣とともに広く知られていますが、一方で東求堂もまた、建築史、文化史的な意味合いにおいて非常に重要です。

東求堂は本堂の東に南面して建つ持仏堂。義政像がお祀りされる板敷きの仏間、付書院や違い棚を備えた同仁斎などからなる。同仁斎は初期の書院造の典型的な建築として有名。

室町時代中期の象徴的な建物の一つであり、書斎であったとされる東求堂内の「同仁斎（どうじんさい）」は、当時まだ珍しかった畳が敷き詰められ、付書院や違い棚が東山山荘創建当初の姿のまま残っています。
　
今回の継承式は、この東求堂の仏間にお祀りされた義政像の御前にて、宗苾さんが秘伝の献香を行い、宗玄さんはその後見（こうけん）を務めました。

東求堂内にお祀りされる足利義政像。義政没後に造像された木像だが、実際のお姿を感じさせるような面持ち。 炷（た）かれた香木は蜂谷家に伝わる義満公秘蔵の名香「賀」。通常、献香は家元の務めであり、これまでは宗玄さんが香を献じ、宗苾さんが後見として控えてきました。親から子へ、師から弟子へ、その大切な役目が引き継がれた瞬間です。