連載「季節の香りを聞く」4月〈志野袋〉葵
時鳥香(ほととぎすこう)
ほととぎす鳴きつる方を眺むれば
ただ有明(ありあけ)の月ぞ残れる千載和歌集──藤原実定──
選・文=蜂谷宗苾(志野流香道 第21世家元継承者)「心待ちにしていた時鳥(ほととぎす)が鳴いたので、その方角を眺めてみたが、もうそこには時鳥の姿は見えず、ただただ美しい有明(ありあけ)の月だけが浮かんでいた」。
例え自分がそこに居なくても、不思議と胸に染み入る情景。平安時代は鶯(うぐいす)だけでなく、時鳥の初音(はつね)を聴くことも風流貴族の大切な嗜みでした。時鳥香は、香木が五種と多く、前半にどこで時鳥が鳴いているかを聞き当て、後半の香りで残月が浮かび上がります。
点数が良いと記録に「ほととぎす」の名目がご褒美として記されます。実定(さねさだ)は詩歌に優れ、平家物語にも度々登場する名門徳大寺家の人。腰痛持ちの私には木製車輪での遠出は厳しいですが、彼らは美声を求め、牛車で深山幽谷(しんざんゆうこく)を彷徨ったのでしょう。
~志野流組香 三十組-十三番~

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