カルチャー&ホビー

なぜ私たちは写楽や歌麿、北斎たちの浮世絵に惹きつけられるのか?

2025.02.17

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旅行熱の高まりに当てた北斎、そして広重の風景画

ところで、浮世絵とは何でしょう。

その始まりは、室町時代の終わり頃に京の町を闊歩する人々を俯瞰して描いた「洛中洛外図(らくちゅうらくがいず)」にあります。

つまり、浮世絵とは風俗画。やがて、「洛中洛外図」の中の人々をズームアップするように「遊楽図(ゆうらくず) 」が生まれ、江戸時代初期になると「一人立ち美人図」が流行り、その描き手として元禄(げんろく)時代に菱川師宣(ひしかわもろのぶ)が登場します。師宣のすごさは、それまで肉筆で描かれていた絵を、庶民が買える値段の版画にしたことです。


そして単色、紅絵(べにえ=墨と赤)が主流だった版画の多色摺りを可能にしたのは「見当(けんとう)」、すなわち版がズレないようにする工夫でした。これにより、明和年間の初め頃に鈴木春信(すずきはるのぶ)によって多色摺りの版画浮世絵が生み出されるのです。

さて、庶民パワーが爆発的に勢いを増した江戸時代後期は、富士山に登って御利益を得たいと願う人々が起こした富士講が江戸の至るところで流行りました。積立貯金をして、くじに当たった人が富士山に行けるというシステムですが、これにより聖地巡礼の気運が高まりました。

また、この頃は東海道など主要な街道が整備されたこともあり、庶民の間でにわかに旅ブームが生まれました。「細見」と呼ばれる現代にもあるような旅行案内書や旅の準備ブック、名所を描いた本などが作られ、明和から文化・文政期にかけて旅行熱はさらに高まったのです。

そこに、ベストタイミングで登場したのが、天保(てんぽう)2~5(1831~1834)年の葛飾北斎《冨嶽三十六景》であり、天保5年の歌川広重(うたがわひろしげ=安藤広重)による《東海道五拾三次之内》です。

色鮮やかな浮世絵は伊勢の神宮へ参詣する「お伊勢参り」や富士講など聖地巡礼を目指す人々の旅情をかき立てました。実は北斎は《冨嶽三十六景》を世に出す前に、小さな版で《東海道五拾三次》を3種類ほど発表しています。けれども、全く当たらなかった。

なぜかというと、まだ旅ブームが到来していなかったからです。時代の気運が高まっていてこそ出版物は売れる。そこは現代と全く同じです。こうして、浮世絵の新ジャンルとして風景画が加わり、人気を博していきます。

ちなみに、葛飾北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》ですが、この作品の大波の成り立ちにも蔦重がかかわっています。とはいえ、今年の大河ドラマ主人公である初代蔦重は寛政(かんせい)9(1797)年には亡くなっているので、こちらは2代目の蔦重ということになります。

勝川春朗(しゅんろう)と名乗っていた若い北斎に役者絵を描かせた初代。彼が出版した絵入狂歌本『柳の糸』で北斎が描いた「江島春望」に大波の最初の原型がありますが、皆さんご存じの有名な北斎の作品とかかわっているのは2代目蔦重なのです。

旅ブーム 聖地巡礼

街道の整備が進んだことで「旅ブーム」が起こり、霊山である富士山への登頂を目指したり、伊勢の神宮に詣でるお伊勢参りが流行した ──

東京都江戸東京博物館蔵 画像提供:東京都江戸東京博物館 / DNPartcom

広重《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》
しんしんと降り積もる雪に、山々や家並みが覆われ、闇に沈みゆく静かな夜の情景を描く。そこに3人の雪道をゆく人々を描くことで足が雪に埋もれる音が聞こえ、静寂を破ることによって、逆に夜の静かさが強調される。めったに雪の降らない蒲原をあえて雪景として印象づけた。

●歌川広重【1797~1858年】

江戸定火消(じょうびけし)同心の子でありながら歌川豊広の門人となる。美人画や役者絵も描くが葛飾北斎とともに風景画や花鳥画を確立した。詩情溢れる画風が魅力。

東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives

北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》
ゴッホが「波の爪に船がつかまれている」と語ったように、巨大な波が、波頭を悪魔の爪のようにして房総から鮮魚を運ぶ押送船に襲いかかろうとする。その劇的場面に動じもせず、画面奥に鎮座する富士。激動と静が対比する傑作だ。船の航路から木更津沖の風景とみる説もある。

●葛飾北斎【1760~1849年】

勝川春章に入門して画業を開始。同門を出てから諸派・洋画を学び、独自の画風を次々と展開。風景画や花鳥画のほか『北斎漫画』などの絵手本、読本挿絵でも活躍。

撮影/本誌・西山 航

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