
東大寺二月堂の修二会(お水取り)は、古都・奈良に春を告げる行事として親しまれています。752年の大仏開眼の年に始まって以来、一度も絶えることなく続けられてきた不退の行法で、椿の造花が二月堂本尊十一面観音菩薩像に供えられることが知られています。
「造花の起源は定かではありませんが、少なくとも平安時代には作られ、そして、300年前には、ほぼ今と同じ造花が作られていたことが記録でわかっています。ここ東大寺のお水取りで重要なことは、修行に入る練行衆が自ら造花を作って捧げること。大仏殿の前の八角燈籠には、『阿闍世王授決経(あじゃせおうじゅけつきょう)』という経の一節が書かれています。貧しいおばあさんがお釈迦様に供えた灯明だけが終夜燃え続けたという『貧者の一灯』として知られる話ですが、この話の続きに、王様がお釈迦様にお花を捧げる際、他人に命じたものではなく、自ら作った花を捧げることで初めて功徳を認めてもらえたという説話があります。心から供養することの尊さを説いたものですが、練行衆が自ら造花を作ることはここに繫がっているのです」と橋村管長猊下。

開山堂の椿を「糊こぼし」と呼ぶ由来にかかわるとされる造花の椿は、菓子に写されるなど、春を待ちわびる奈良の人に愛され続けています。撮影/大泉省吾