名字365 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を毎日紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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田中丸(たなかまる)
「田中丸」は九州北部の名字で、とくに佐賀県に集中しています。この地域に多い「~丸」という名字の1つです。
江戸時代になると、米の取れ高が経済規模と直結するため各地で新田開発が進みました。とくに江戸時代中期以降は農機具なども発達しましたから、各藩はこぞって新田の開発に乗り出したのです。
こうしてうまれた田んぼの多くは「~新田」と呼ばれましたが、地域によっては「~河内(ごうち)」など、独特の呼び方をすることもありました。そして、九州北部では「~丸」ということが多かったのです。
つまり、「田中丸」とは「田中さんの開発した田んぼ」という意味なのです。
さて、「田中丸」というと、地元では福岡・佐賀・長崎の3県で百貨店を経営する「玉屋」のオーナー、田中丸家が有名です。(※福岡玉屋は平成11年に閉店)
もとは肥前国牛津(現在の佐賀県小城市牛津町)の豪商で、江戸時代後期に初代市兵衛が牛津西町で荒物小売を開業したのが祖です。
孫の初代善蔵は京都・大坂から商品を仕入れて豪商となりました。2代目善蔵は日清戦争の際に佐世保に進出すると、佐世保海軍鎮守府から包帯用晒木綿を大量に受注して海軍御用達となり、福岡・佐賀・長崎3県にわたる百貨店網を形成したのです。
明治中期に建てられた同家のレンガ造りの倉庫「牛津赤れんが館」と、同家住宅だった「牛津会館」はともに国登録有形文化財となっています。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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