フィギュアスケート愛(eye)
『家庭画報』の「フィギュアスケート」特集を担当する、フリー編集者・ライターの小松庸子さんが独自の視点で取材の舞台裏や選手のトピックスなどを綴ります。
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フィギュアスケートファンの皆さんはすでにご存知だと思いますが、『家庭画報』のInstagramでもご紹介したように、2026年5月22日、ビッグニュースが駆け巡りました。
男子シングルスケーターとして、2018年の平昌五輪で銀メダル、22年の北京五輪ではシングル・銅メダル、団体で銀メダルと3つのメダルを獲得している宇野昌磨さん。そして、ジュニア時代から類まれなるスケーティングセンスと優雅な演技で注目されてきた本田真凜さんがアイスダンスカップルとして現役に復帰、2030年にフランス・アルプス地方で開催される五輪出場を目指すと発表したのです。これは、日本のアイスダンス界の歴史が動く、大きな出来事だといえます。
・貴重な記者会見の写真をフォトギャラリーで見る>>24年5月に現役を引退して以来、宇野さんは「ワンピース・オン・アイス」や「Ice Brave」などのアイスショーで、新たな魅力を披露してきました。初めてプロデュースを手がけた2025年7月の「Ice Brave」では、本田真凜さんとアイスダンスにも挑戦。公演を取材し、その出来栄えに感嘆した記者たちからは「このままカップルを組んで、現役に復帰すればいいのに!」という声もちらほら聞かれましたが、覚悟も準備も必要で、実現に至るにはそうそう簡単でないことは重々承知していました。
男子シングルでの現役引退後、2シーズンの現役復帰を経て、村元哉中さんとアイスダンスカップルを結成した高橋大輔さんに以前インタビューした際、「アイスダンスのスケート靴はブレードが短くて薄いし、トゥピックも小さいので、最初は本当に滑りにくかった。シングルとはまったくの別もののジャンルなんです。安全に、そして美しくリフトするためには肉体改造がマストで筋トレも必要だし、2人で適切な距離感をとりながら演技することも本当に難しい。でも、アイスダンスにはフィギュアスケートの魅力がすべて詰まっていると思います。だから、フィギュアスケートを極めたいなら、ショーのためでもいいので、アイスダンスに挑戦してみることをすべてのスケーターに勧めたい」と語ってくれました。
実際、高橋さんが宇野さんにアイスダンスを勧めたこともあったのですが、その際、宇野さんは「アイスダンスはフィギュアスケートの中でもカテゴリーが一つ違うぐらい、スケートという芸術性を表している競技だと思っているので、僕は絶対にアイスダンスは無理だなって。身長的にも(無理だなって)思っています」と固辞。それに対して高橋さんは「いや、大丈夫だと思うよ、身長は。なんとかなるから」とさらに勧めていたので、今回のアイスダンスカップル結成を聞いて喜んでいるかもしれません。
漢気(おとこぎ)溢れる宇野昌磨さん、本気の覚悟が伝わってきた本田真凜さん
宇野さんは元々、言葉のチョイスが独特、的確、そして正直なのですが、今回の会見でも飾らないまっすぐなメッセージの数々が話題になっています。
「僕はどれだけ真凜がすごいかを知っています。何をさせてもすごい表現力があって、すごい天才で」
「真凜のスケートの素晴らしさを、より多くの人に伝えたい」
「ぶっちゃけると、僕じゃなくても真凜のスケートの素晴らしさは伝わると思うんですね。僕じゃない素晴らしいアイスダンサーと組んだら、きっと数年でトップレベルで戦っている、それぐらい素晴らしいスケーターなんですけれど、でもほかの男の人とトップで滑っている姿を想像しても『いや、それはな』と思って。どうせならというか、絶対隣は自分がいいなって。普通の人間なら絶対思うと僕は思うんですよ。なので、こういう決断になりました」
いくつか抜粋しただけでも、会見での漢気あふれる発言の数々を思い出し、ほっこりしてしまいます。長年、フィギュアスケートの現場で撮影し続けているカメラマンの麻生えりさんも「こんなに終始ニコニコしている昌磨さんを初めて撮影しました」とのこと。
2018年1月号での特集「宇野昌磨 二十歳の肖像」での取材時に、宇野昌磨さんを長年指導してきた山田満知子コーチに宇野さんの魅力をお尋ねした際、「昌磨はね、いい漢(おとこ)なんですよ」と表現されていたことを思い出しました。
その宇野さんが、スケーターとしての資質、表現力を賞賛してやまないのが本田真凜さんです。2人がお互いに心の底からリスペクトし合っていることが言葉の端々から伝わってくる会見でした。
そして、本田真凜さんが時折見せる真摯な表情。24年の10月、宇野さんから「一緒に五輪を目指そう!」とカップル結成を持ちかけられましたが、「昌磨くんの素晴らしい経歴の瑕になってはいけない」とすぐには結論を出せなかったという言葉に、彼女の葛藤、そしてそれを乗り越えた覚悟が伝わってきました。不安や迷いを払拭できたのは、「悔いなく現役を終えることができた。でも幼い頃の夢だった五輪出場は心に残っていた」という正直な思いに目を向けさせてくれた、信頼できるパートナーがいたからにほかなりません。
以前、『家庭画報』本誌の取材で高橋大輔さんに「魅力的だと思うスケーター」をお聞きした際、「真凜ちゃんの表現力は天性のもの。氷上で独特な色気を出せる」としてお名前を挙げられたことがありました。
それぞれが高いスキルと表現力を持つ2人が、ショーの中でアイスダンスカップルとして演技を見せてくれるだけでも濃密で素敵な世界でしたが、まさか「選手」として戻ってきてくれるとは。宇野さんは「勝ち負け以上に、2人で何かを作り上げる過程を大事に楽しみを追い求めたい」と語りますが、2人が奏でるケミストリーを想像し、今からワクワクが止まりません。
村元哉中&高橋大輔組の影響もあり、この数年、カップル結成が続くアイスダンス界。「うたまさ」こと吉田唄菜&森田真沙也組、「かほゆう」こと山下珂歩(かほ)&永田裕人組、「りかしん」こと紀平梨花&西山真瑚組、「いくこう」こと櫛田育良&島田高志郎組。ここに、「しょまりん」こと本田真凜&宇野昌磨組が参戦するわけです。
27年世界選手権でのアイスダンス出場枠は1組のみ。アイスダンスカップルたちが切磋琢磨し、レベルアップしていくことで、日本のフィギュアスケート界はますます盛り上がるはず。まずは夏のアイスショー、そして26年12月の全日本選手権がたまらなく楽しみです。
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小松庸子/Yoko Komatsuフリー編集者・ライター。世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。
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