〔特集〕“自分らしく” こそ “美しい” 夏木マリという人生 情報が溢れる現代において、美の常識や価値観も日々更新されていますが、“自分らしく生きる人こそ、美しい” は普遍の真理だと家庭画報本誌は考えます。そのお手本といえるのが、俳優、歌手、開発途上国の支援者など、あらゆる活動において、格別の輝きを放ち続けている夏木マリさんです。かっこよさも艶っぽさも可愛らしさも、すべてが「夏木さんらしい」。そんな憧れの女性の “自分らしさ” を形作っている信念を伺いました。
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俳優として ──
「『私じゃなきゃできなかった』。どの役も、そう思えるように演じてきました」
フリルたっぷりのブラウスを装えば、フェミニンな魅力が全開。夏木さんは普段もフリルやレースのついた服をよく着用されるそう。
生きざまが出るのが俳優。日々をちゃんと生きないと
歌手としてデビューした夏木さんが本格的に俳優の仕事を始めたのは、30代の初め。以来、多くの舞台や映画、ドラマに出演し、唯一無二の存在感を発揮してきました。国民的映画『男はつらいよ』シリーズやNHKの連続テレビ小説などを通じて幅広い層のファンを獲得し、確かな地位を築いた夏木さんにとって、俳優としての信念とは。
「お芝居にはその人の生きざまが出るので、因果な仕事を選んでしまったなと思いますが、日々をちゃんと生きないと、ということは意識しています。役については、完成した作品を見たときに、『私じゃなきゃできなかった』と思えるよう、時間をかけて役作りをして演じています」
2023年の公演『印象派NÉO vol.4 ピノキオの偉烈』より。
丁寧な役作りは、アニメ映画の声の出演や外国映画の吹き替えでも変わりませんが、声だけの演技には、俳優にはない難しさがあると話します。
「映像に頼ることができない分、声の高低や強弱、テンポが非常に大事で、とても勉強になります。俳優は全員、経験したほうがいいと思うくらい」。
舞台『千と千尋の神隠し』で夏木さんは原作の同名アニメ映画で声を担当した湯婆婆(写真)と銭婆の2役を熱演。2024年のロンドン公演では約30万人を動員したこの人気舞台は、2026年12月からワールドツアーが予定されている。
舞台『千と千尋の神隠し』 原作:宮﨑 駿 製作:東宝 協力:スタジオジブリ
一つ一つの役に真摯に向き合う夏木さんだからこそ、引き受けられない仕事もあるといいます。
「私に向いていない役のお話はあまりきませんが、ごくたまに『この役は、私がプロデューサーなら、あの方に演じてもらいたいな』と閃くことがあって。そういうときは私がやらないほうがいいと思うので、正直にそうお話しします」。
実際のところ、これまでに夏木さんが「私じゃなきゃできなかった」と思えた役はどのくらいあるのでしょう?
そう問いかけると、間髪をいれずに「全部です。引き受けたからには、何が何でも納得できる形に仕上げる。それが昭和の女です(笑)」という惚れ惚れするほど気風のいいお返事。「ただね、私、普通の人の役があまりこないんですよ。だから役作りもなかなか難しくて」と笑いながら話してくれました。
これまでで特に心に残っている出演作を伺うと、「『ハンテッド』。大失敗したハリウッド映画です」という予想外の回答がありました。
「ハリウッドに憧れてオーディションを受けたら、忍者役で合格したんです。ニューヨークの友達に『忍者の役なんだけど、どう思う?』と相談したら、『ハリウッドに行きたいんでしょ? 亀でも忍者でもやりなさい』といわれて。よし、と決心して行ったんですけど、現場はぐちゃぐちゃで人種差別もあって、興行的にも大失敗。だから、私にとっては汚点ともいうべき作品なんですけど、一番強烈に心に残っているんです」。
3点とも、アクション映画『ハンテッド』(1995年)の舞台裏を記録した貴重な写真(夏木さん提供)。本作はクリストファー・ランバート、ジョン・ローン、原田芳雄らも出演した期待作だった。上写真はメイクルームにて。
くノ一姿で待機する夏木さん。
混沌としていたという現場。
それでも、ハリウッド映画の現場を見られたのは貴重な経験だったと振り返る夏木さん。
「自分の生きる場所はここじゃないとわかったのも収穫でした。“日本語英語” でいいといわれていたのに、rとthの発音はしっかり直されましたしね(笑)」。
失敗も成功もすべてを糧にして、夏木さんの俳優人生はいっそう円熟味を増していきます。
夏木マリさん(なつき・まり)1973年歌手デビュー。1980年代から俳優としても活躍。1993年よりコンセプチュアルアートシアター「印象派」シリーズを制作。2009年にパフォーマンス集団MNT(マリナツキテロワール)を設立。開発途上国の支援活動も継続中。
(次回へ続く。
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