赤と白の縞模様の猫「マイキー」や、丸みを帯びた動物や子どもたちの陶器作品。スウェーデンを代表する陶芸家として、世代を超えて日本でも愛されてきたリサ・ラーソン。2024年に92歳で亡くなった彼女の晩年を、孫娘で映画監督のエミリア・エクマン・ラーソンが8年間にわたって記録したドキュメンタリー映画『リサ・ラーソンがいた時間』が、2026年9月18日(金)より全国で順次公開されます。エミリアさんがカメラで捉えた、祖母の知られざる姿とは。
リサ・ラーソンを代表するモチーフの一つが猫。動物のかわいくてユニークな笑える写真をたくさん集めていたという。
「おばあちゃんの作品は、なぜ日本でこんなに人気なの?」
映画を撮るきっかけの一つとなったのは、エミリアさんの素朴な疑問でした。「子供の頃、日本で作られたリサ・ラーソンのグッズがたくさん送られてきました。自分が知っていた祖母の作品とは違っていて、なぜ日本でこんなに人気があるのだろう、と興味を持ったのです」。
芸術一家に生まれ育ち、アートスクールで陶芸を専攻したエミリアさん。周囲の友人たちは全員祖母のことを知っていました。しかし、家族の一員として見ていたエミリアさんにとっては、意外にも「よく知らない」存在でした。これから自身も創作の道へ進もうとしていた時期だったこともあり、「最高のアドバイスをくれるメンターになり得るのは、祖母なのではないか。話してみよう」と、カメラを向けることを決めたといいます。
リサに抱かれる幼い頃のエミリアさん。右はリサの最大の理解者だった夫のグンナル。
2017年から始まった撮影は、8年間に及びました。長い時間をともに過ごすなかで見えてきたのは、世界的な陶芸家という肩書きの向こう側にいる、一人の女性の姿でした。「シャイな人だと思っていたのですが、パーソナルな質問をぶつけ始めたらすぐに心をオープンにして答えてくれました。話し始めると、年齢差がすぐに消えて、親友のような関係になっていったのです。ユーモアのセンスがあって、思考も非常にモダンでした」とエミリアさんは振り返ります。
スウェーデンを代表する陶磁器メーカー「グスタフスベリ」のアトリエで制作する、若き日のリサ・ラーソン。
「かわいい」だけではない、人生を映し出したリサ・ラーソンの創作
日本では、愛らしい動物や子どもの作品で知られるリサ・ラーソン。一方、映画にはそれとは大きく印象の異なる作品も登場します。スクリーンに映し出されたのは、失敗作として自宅の庭に捨てた作品を、夫のグンナルが拾い集めて飾った石の壁。エミリアさんによれば、リサは自分の作品を必ずしもハッピーなものとは考えていませんでした。動物のユニークな姿や、子どもや孫への愛情、そして自身が経験したつらい記憶など、さまざまなものが粘土を通して自然に形になっていったのだといいます。世界中で「かわいい」と愛される作品の背景には、単純な愛らしさだけでは語れない、作り手自身の人生が映し出されているのです。
リサの創作意欲は90歳を超えても衰えることはなかった。スコーネ地方にあるサマーハウスのアトリエにて。
粘土を手にした瞬間、表情が変わる
エミリアさんにとって、子どもの頃の夏の別荘での時間も忘れられない思い出です。「家族で過ごした賑やかな時間で、映画にも出てきたように、サーカスみたいなことをしたり、演劇をしたり。粘土とほこりの匂いが漂っていたアトリエで、祖母から『粘土を触りたい?』ときかれた時は天にも昇る気持ちになりました。祖母の前に座って、一緒に粘土を触ったことは、最高の思い出で、とても幸せでした」。普段は大きな笑い声の祖母が、土を手にすると、探求心と集中力に満ちた表情になり、目つきまで変わる──その瞬間に、エミリアさんは創作のミステリーを感じたといいます。
自宅のダイニングルームでくつろぐひととき。自身の作品やお気に入りの絵画が飾られたインテリアが見られるのも、映画の見どころの一つ。
この映画は、ひとりの偉大な陶芸家の人生を振り返るだけの映画ではありません。祖母と孫、ふたりのアーティストが言葉を交わし、ときに互いを見つめながら、創作すること、家族であることについて考えていく時間でもあります。
「この映画をきっかけに、特に年上の家族と話す時間を持つことを意識するようになってほしいですね。スウェーデンのフィーカ(お茶の時間)のように、お茶をしたり、クッキーを食べたりしながら、もっとお互いに話せば、いろいろなインスピレーションが生まれてくると思います。そして、創作への意欲が生まれることにつながってくれたら嬉しい」(エミリアさん)。
リサ・ラーソンが残した愛らしい作品の数々。その背景にあった一人の女性の人生と、土に触れる手。8年間、孫娘のカメラだけが見つめ続けたリサ・ラーソンの素顔に、きっと出会えるはずです。
『リサ・ラーソンがいた時間』
2026年9月18日(金)より
シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国で順次公開
監督・撮影:エミリア・エクマン・ラーソン
出演:リサ・ラーソン、グンナル・ラーソン、マティアス・ラーソン、エミリア・エクマン・ラーソンほか
日本語字幕:LiLiCo
2025年/スウェーデン/94分 配給:ミモザフィルムズ
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