世話物で醸し出す“江戸のにおい”
7月の巡業公演でのもう一つの襲名披露演目が『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』。江戸の町に生きる町人たちの姿が生き生きと浮かび上がる舞台は、菊五郎劇団の真骨頂です。
「松竹座で演じた(髪結)新三も巡業でつとめる(魚屋)宗五郎も、市井の人。娘を拐(かどわ)かす小悪党の新三が大家さんにやり込められたり、禁酒を破って大暴れした宗五郎がお殿様に詫びられたり、失敗した人も見捨てられない江戸の人情が描かれています。7月の巡業公演では『藤娘』と『魚屋宗五郎』、どちらもお酒がテーマなので、お客様には娘で酔って、江戸の世話物の風情でまた酔っていただけると思います」と八代目菊五郎さん。
『梅雨小袖昔八丈 髪結新三』髪結新三(八代目尾上菊五郎) 2025年7月 大阪松竹座
音羽屋の代々が演じてきた世話物の主人公は、菊之助さんにとっても憧れの役。
「世話物は台詞も現代に近くてわかりやすいですが、だからこそ江戸時代の人として演じるのは難しそう。でも、新三も宗五郎も本当にカッコいいので、いつかはやってみたいです」。
2025年10月名古屋御園座で上演された『鼠小僧次郎吉』では、蜆売り三吉を演じる菊之助さんの、下駄に雪が挟まらないよう、滑らないように雪道を一歩ずつ歩く足取りが見事でした。
「六代目菊五郎は、子供時代の祖父・梅幸が勤めた三吉の雪の中での歩き方が気に入らず、雪の降る屋外に放り出して実際に歩いて学ばせたと伝わっています。私はそこまで厳しくはできませんが、江戸の市井に生きる人のにおいが出せる役者になることは、私にとっても倅にとっても、これからもずっと追いかけていく命題だと考えています」と八代目菊五郎さん。
『鼠小僧次郎吉』左から・蜆売り三吉(尾上菊之助)、稲葉幸蔵(八代目尾上菊五郎) 2025年10月名古屋御園座
襲名披露の締めくくりとなる7月の巡業公演は、菊之助さんはお休み。八代目菊五郎さんのみ全国20都市を回ります。
「巡業公演に参加できないのはちょっと残念ですが、中学生になったので勉強も頑張りつつ、これからも色々なことをどんどん経験して、「歌舞伎役者 六代目菊之助」の人生を彩っていけたらなと思っています」と、菊之助さん。
最後に八代目菊五郎さんからもメッセージをいただきました。
「菊五郎の名跡を八代目として襲名させていただき一年が経ちましたが、まだまだスタートラインに立ったに過ぎません。先人たちが築き上げてきたもの、心血を注いで守ってきた芸や型を受け継ぐということは、その精神や、魂を受け継いでいくことだと思っております。八代目菊五郎として古典を継承し、「新古演劇十種」の復活に取り組むとともに、近々新作歌舞伎の上演も考えています。菊之助と二人三脚で、音羽屋の家の芸を、歌舞伎を、世界に知っていただけるよう努力して参ります」。
【公演情報】
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
松竹大歌舞伎
2026年7月7日(火)~31日(金)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/jyungyou/play/973出演:八代目尾上菊五郎 ほか
一、上 雨の五郎
下 藤娘
二、八代目 尾上菊五郎 襲名披露 口上
三、魚屋宗五郎
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/jyungyou/play/973