今月の音楽人 山田和樹
すべての自然現象は音楽に繫がっている。
音の並びで、世界を見たいんです
© Zuzanna Specjal
自らは一音も発さずに音楽を奏でる指揮者とは、「いろいろなものからエネルギーを集めてくる係」という、山田和樹さん。「たとえれば『スター・ウォーズ』の“フォース”、『ドラゴンボール』の“元気玉”です。作曲家のスピリットを感じ、オーケストラやお客様からパワーをいただいて表現に繫げる役割と思っています」
音楽の中に隠された謎を見つけ出す、ミステリー的要素に惹きつけられるといいます。
「音の並びで、世界の広がりを見たいんです。音階って、ドレミファソラシと7音辿ると、同じドに戻る。不思議でしょ。そのオクターブに、虹がかかるように見えて。美しい偶然かと思っていたら、実はニュートンは、音階に準なぞらえて、虹を7色と決めたんですって。そんな風に、僕の中で音楽と宇宙と数のロマンが結びついて……」
話はとめどなく広がっていきます。早朝にベルリンから十数時間のフライトで到着したばかりというのに、疲れも見せず、生き生きとした言葉で、音楽への溢れる想いを語ってくれます。
30歳でブザンソン国際指揮者コンクール優勝。以来、海外の名だたるオーケストラに次々と招かれ、共演を重ねてきました。2025年6月には、世界最高峰のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮。世界中から注目を浴びています。
「20代の僕には思いもよらない展開で、どこかで夢を見ているような気もします。運よく、いろいろな方に巡り会えて。なかでも、僕に音楽監督という任を初めて与えてくれたモナコのモンテカルロ・フィルとの10年間で学んだことは、とても大きく、今のすべてに繫がっていると思います」
並行してイギリスのバーミンガム市交響楽団とも、十数年間かけて関係を育んできました。歴代の名指揮者が率いてきたオーケストラとは、最初の共演から「相思相愛」に。日本ツアーも既に3度行い、首席客演指揮者、首席指揮者を経て、2024年、音楽監督に就任。
「自分が世界で一番幸せな指揮者だと感じられる間柄です」
レコーディングにも取り組み、今春、名門ドイツ・グラモフォンからCDをリリース。「高校生の頃から、ずっと憧れていたレーベル」でデビューする選曲は、かなり悩んだそうですが、イギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトンの交響曲2作品他を、本拠地バーミンガムのシンフォニー・ホールで、2年越しでライブ収録しました。
知られざる作曲家や演奏機会の少ない作品を取り上げて、その魅力を最大限に発揮する演奏こそ、マエストロ山田の真骨頂。
「僕は、すきま産業ですから(笑)」
などと謙遜(けんそん)しますが、クラシック音楽界をより豊かに広げてきた功績は、計り知れません。
日本国内でも、2026年4月から東京芸術劇場(池袋)音楽部門の芸術監督に就き、新たなプロジェクトが始まりました。
「人が集う場所としての音楽ホールの存在感、地域に根差した活動が必要です。待っているだけではなく、出かけて行かねば!」
題して「交響都市計画」。山田監督のもと、どんな音楽時間が生み出されるのか、楽しみです。
山田和樹(やまだ・かずき)1979年神奈川県生まれ。2009年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。2012~2018年スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、2016/2017シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、2024年バーミンガム市交響楽団音楽監督、2026年4月東京芸術劇場芸術監督就任。
『ウォルトン:交響曲第1番・第2番 他』
山田和樹 ユニバーサル ミュージック 3300円
イギリスを代表する作曲家のひとり、ウォルトンの交響曲の録音は稀少。信頼の厚いバーミンガム市交響楽団との熱演が伝わってくる。演奏前に、ウォルトンが晩年暮らした島を訪れ、作曲家が見ていた風景を感じてきたという。戴冠行進曲《宝玉と王の杖》は、エリザベス2世生誕100周年を迎える年にふさわしい選曲。