今月の音楽人 加古隆
僕が惹かれる僕らしい世界を、ピアノの音で表していく。生涯現役です
何百曲もの音楽作品を生み出してきた作曲家であり、ステージで表現し続けるピアニスト。2026年春、79歳になった加古 隆さんが「挑戦する決心をした」という、ピアノソロのコンサートツアーが行われます。音楽家人生の中でエポックメーキングとなった楽曲を選び、構成するコンサートは、ピアノを通してさまざまな出会いを振り返り、新たなイメージへと向かう旅になるようです。

デビューは1973年、パリ。
「渡仏して、フリー・ジャズという世界に初めて出会ったんです。即興演奏をするジャズグループの一員として、演奏活動を始めました」
パリ国立高等音楽院で現代音楽の巨匠オリヴィエ・メシアンに作曲を学び、学生ながら発表した楽曲が注目を浴びてもいた時期。ジャンルの垣根を越え、作曲家・演奏家という両輪が、パリで動き始めたのです。
「1980年に帰国し、ソロ・コンサートを始めた当初は、やはり前衛ジャズのスタイルでした。尊敬していた音楽評論家に、『1曲でいいから誰もが知っているメロディーを取り上げて、展開したら、聴いている人はほっとすると思うよ』といわれ、数年間試行錯誤したうえで生まれたのが、『ポエジー』という作品です。イングランド民謡『グリーンスリーブス』のメロディーから思い浮かぶフレーズを書きとめていったら、1曲の譜ができました。即興部分はまったくなく、これほどわかりやすい音楽を弾いてもよいのか、当初は戸惑いもあったんです。それまでの自分の作品とは、あまりに違っていたので」
しかし演奏していくうち、「とても大きな音楽の可能性のドアの前に立てた」という感触を得たそうです。
「それ以降、しっかりしたメロディーを大切に、即興ではなく、作曲する方向に自然と変わっていきました。今の僕自身の音楽を見つけるきっかけとなった、原点の曲です」
森や海、風、光、色やフォルム、絵や言葉から触発されるイマジネーション。シンプルで、人に強く語りかけるメロディー。
「美しいものを作りたい。過ぎ去った時間、一瞬の出来事、すべてはいつか終わる、だからこそ今がこんなに美しいという感覚。演奏しながら、美しさと隣り合った哀しみを感じることがあります」
NHK『映像の世紀』のための数々の楽曲は、オーケストラや弦楽四重奏などでも演奏されてきましたが、今回はピアノ一台で表現します。
「言葉や映像では表しきれない何か、人類共通のある世界が、音楽によって立ち上がる。大勢の方に繰り返し聴かれることで、曲も成長していっていると感じます。僕ひとりが作ったとは思えないんです」
映画の台本に感動し、人の心の襞ひだを音楽にできたという「『博士の愛した数式』~愛のテーマ」、絵画や舞踏とコラボレートした曲、いくつもの幸せな出会い、亡き人へのオマージュ……。
「やわらかく丸みのある、豊かで、芯のあるピアノの音。森の中でカーンと響く木のような、透明感のある音に憧れます。強いエネルギーを持って、たくさんの呼吸を使って、心を澄まして本当に憧れると、そういう美しい音を鳴らせるんです」
加古 隆(かこ・たかし)1947年大阪府生まれ。東京藝術大学大学院・パリ国立高等音楽院にて作曲を学ぶ。最高位の成績で卒業、帰国。クラシック・現代音楽・ジャズというジャンルを包含したスタイルで、ピアノ曲からオーケストラ作品まで幅広く、映画音楽での受賞も多い。2016年度日本放送協会 放送文化賞受賞。
『加古 隆 ピアノソロ・コンサート2026』

7年ぶりとなる全編ソロのステージ。「パリは燃えているか」、ソロバージョン初演の「神のパッサカリア」など『映像の世紀』の曲の数々、「ポエジー」「いにしえの響き」「エンプティー・トランス」「白梅抄」「『博士の愛した数式』~愛のテーマ」ほか、こだわりの選曲で50余年の足跡を、ピアノで振り返る。
2026年5月2日(土)14時開演 サントリーホール
全席指定8800円
お問い合わせ:キョードー東京
TEL:0570-550-799
ほか福島、宮城、大阪、福岡、愛知、北海道にて、2026年4月11日(土)~5月9日(土)に公演あり。