世界遺産・薬師寺奉納行事 八神純子―魂の歌― 前編 午後には柔らかな秋の日差しが差し込んでいた奈良・薬師寺東塔前に特設されたステージ。コンサートの開始直前から時雨模様になったものの「歌を届けたい」という熱意が天にも通じたのか、終盤には月や星が輝く夜空となる中、シンガーソングライターの八神純子さんが奉納行事を行いました。「第二の音楽人生」真っ最中という八神さんに、歌への思いなどについて語っていただきました。

薬師寺に唯一残る創建時の建物、東塔前に設置された会場での奉納行事で圧巻の歌を披露した八神純子さん。
八神純子 Junko Yagami愛知県出身。シンガーソングライター。1974年ヤマハポピュラーソングコンテストで優秀曲賞・入賞。世界歌謡祭、チリ国際音楽祭などにも出場。78年20歳でデビュー。ヒット曲多数。2022年、優れた女性ソングライターに贈られる、アメリカの「女性ソングライターの殿堂(Women Song writers Hall ofFame)」を日本人で初受賞。
世界遺産、薬師寺の東塔。この神聖なステージからまたいつの日か歌を届けたい

2025年11月2日に行われた世界遺産・薬師寺奉納行事「八神純子 Symphonic Resonance of TERRA ー地球との共振ー」(主催:RENAISSANCE CLASSICS)。数多のヒット曲で盛り上げ、11分を超す大作「TERRA〜here we will stay」では薬師寺を支えてきた木々にまで染みていくような歌を響かせた。
2011年から動きだした第二の音楽人生の活動
―世界遺産である薬師寺・東塔での奉納行事、素晴らしい歌声でとても幻想的でしたが、いかがでしたか?
日暮れ時、幻想的に染まる東塔と金堂。
八神さん(以下、八神) 特別な場所で歌うことができて光栄だったのですが、公演直前に雨が降ってきてしまって。皆様がせっかくいらしてくださったのに、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
―ですが、公演途中から雲の合間に月も見えてドラマティックな時間でした。
欧州で活躍中の桝澤寿男氏が指揮する京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団。写真中央が桝澤氏。
八神 そういっていただけるとありがたいですが…。晴れのコンディションのときに、もう一度この神聖なステージに立ち、皆様に歌を届けたいと願っています。
―20歳のデビューから、1986年に音楽活動の拠点をアメリカ・ロサンゼルスに移すまでを「第一の音楽人生」、2011年以降を「第二の音楽人生」とされていますが、第二のスタートは東日本大震災が転機になったそうですね。八神 結婚し、アメリカで息子と娘の子育てをしていたのですが、10年のテレビ出演をきっかけに、ファンの皆さんから復帰を望む声を多数いただいたんです。11年5月に、久しぶりにコンサートを開催することになり、リハーサルのため翌日の飛行機で日本へ向かう準備をロサンゼルスの自宅でしていた3月10日の夜、日本では3月11日ですが、東日本大震災が起きました。テレビに映る光景に声が出ませんでした。リハーサルも日本に飛ぶ飛行機もキャンセルされましたが「どうしても日本に帰りたい」と思って、ハワイ経由で日本に戻りました。「何かしたい、しなければ」と思い、ラジオで呼びかけ、親しい仲間とトランス・パシフィック・キャンペーンを始めました。
―どのような活動なのでしょう?八神 11年の5月から被災地に入ってシェフと一緒に炊き出しをしたり、自分で企画・運営してチャリティライブを行ったり。物資を集めて届けたりもしました。でも、その活動を通して私自身もたくさんの気づきや学びがありました。ある日ライブ予定の場所に行ったら、いらしていたのが3人だったときがあったんです。でも、この3人の方は私の歌を聴くために早くから待っていてくださった。その姿を目にしたとき、今までで最高の歌を歌いたいという思いが心の底から強く湧き上がるのを感じました。この経験を通じて「私はお客様が3人でも300人でも3000人でも、同じように本気で歌うんだな」と気づき、なんだか自分のことが好きになれたんです。
―その後、コンサートに対する向き合い方にも変化があったそうですね。八神 第一の音楽人生のときは10~20代だったこともあり、周りの大人たちがすべてお膳立てしていたのですが、何のためにコンサートで歌うのか、正直わからなくなってしまって。緊張するばかりであまり楽しめなかったんです。それが支援活動を行う中で、「私は一人一人に歌を伝えたいから歌うんだ」という原点に気がつくことができました。イベンターやプロモーターに丸投げするのではなく、主要スタッフを固定した“Team Yagami”でコンサートを作り上げる。リーダーとしてすべてに責任を持ち作り上げる充足感が、その後の活動のありようを大きく変えました。
歌いたい歌を歌いたいだけ歌う
ライフワークの一つ、年に一度の「ヤガ祭り」

写真/スエイシナオヨシ
2017年から始まった「ヤガ祭り」。23年からは2日間連続開催となり、特に2日目は4時間前後、30曲以上の楽曲を披露する。過剰にショーアップせず、深みある歌の力で勝負する、まさに八神さんならではの真骨頂。25年初日のゲスト・稲垣潤一さん(写真右)と、左はヤガミグミにホーンズ、ストリングスも加わった大編成で歌う2日目のアンコール。
(次回へ続く。)