【今、この人に会いたい!】上野水香さん ※秘蔵フォトギャラリーあり
年齢を重ねるごとに、役に深みが増し、踊りが研ぎ澄まされていく——。
15歳でローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞し、モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーを首席で卒業。2004年に東京バレエ団にプリンシパルとして入団して以来、第一線で舞台に立ち続けてきた上野水香さん。モーリス・ベジャール振付『ボレロ』では、国内バレエ団の女性ダンサーとして唯一、主役“メロディ”を踊ることを許されています。
そんな上野さんの名を冠する〈上野水香オン・ステージ〉が今年3月に上演されます。舞台に臨むにあたり、いまの踊りと表現、バレエへの想いなどについて伺いました。
今回は、『上野水香オン・ステージ』3月20日(金・祝)17時~のS席チケットを、2名様にプレゼントします。
記事末尾の専用フォームよりご応募ください。
同じ作品を何度踊っても、その都度新しい発見がある

音楽表現の幅の広さにも定評がある上野さん。「音楽については深く考えすぎないようにしています」と、意外な答えが返ってきました。「振付家の方々が音楽を分析して振りを作ってくれているわけですから、私は与えられた振りをただただ音を感じながら踊るだけ。バレエは音楽を可視化したものなので、音楽を無視して動くことはできないし、一体になることを意識しながら踊るよう心がけています」
──昨年11月のワシーリエフ版*1『ドン・キホーテ』全幕では、3年ぶりに主役キトリを踊られました。踊られていかがでしたか。上野さん:楽しかった、そのひと言に尽きます。バジル役のヴィクター・カイシェタさん(オランダ国立バレエ団)が来てから本番まで1週間、全体のリハーサル期間もわずか2週間しかなくて大変でしたけど(笑)。
*1……「版」とは、振付家や演出家が、振付や演出を改訂した「改訂版」のこと。ワシーリエフ版は、ボリショイ劇場芸術総監督やローマ歌劇場バレエ団の芸術監督も歴任したロシアを代表するバレエ・ダンサー、ウラジーミル・ワシーリエフが改訂振付・演出した作品。
──タイトなスケジュールでしたね!上野さん:バレエ団としては頻繁に『子どものためのバレエ 「ドン・キホーテの夢」』を上演しているので、団員たちは身体に踊りが入っていたため、短期集中でも困ることはなかったように思います。
私は3年ぶりだったので不安はありましたが、直前に客演で他の作品を多数踊っていたので、“踊れる身体”ができあがっていたこともあり、その勢いのまま本番まで臨めたのが良かったです。
12月初旬から中旬にかけて、3月に上演する〈上野水香オン・ステージ〉で一緒に踊るフリーデマン・フォーゲルとのリハーサルのため(取材は2025年12月末)、ドイツ・シュツットガルトを訪れていたのですが、フリーデマンと「長く稽古をするよりも短期集中のほうがいいよね」なんて言っていたんです(笑)。長い期間をかけて稽古をすると、かえって考えすぎてわからなくなってしまったり、練習のしすぎで調子を崩したりすることもあるので。特に『ドン・キ』のように何度も踊っている作品は、身体に自然と振りは入っているから、本番に向けてどう調整していくかが大事だと。年齢やキャリアを重ねると、そういう感覚がより研ぎ澄まされていくのかもしれません。なので、今回は体力的にもとてもラクでした。
──ワシーリエフ版は踊りがハードだと聞くので意外です。上野さん:実は過去に踊ったときは本当につらくて、足もかなりきつかったんです。本来は大変な作品のはずなんですけど、今回は身体の状態も気持ちの持ち方も違っていたのかもしれません。
あと、今回初めて組んだカイシェタさんとのパートナリングの影響もあったと思います。彼はブラジル出身で、ラテンの気質をそのまま体現しているようなタイプで芝居も無理がない。最初から最後まで、彼につられてエネルギッシュに駆け抜けられました。
──パートナーによって変わるものなのですね。上野さん:だいぶ変わると思います。今回、同じ振付でも、掛け合いの中で全然違う自分が出てきたことに驚きました。
前回は自分のキトリが熟成されてきて、成長物語のような感じがしたんです。キトリがバジルと、親に反対されながらもあの手この手で説得しようと努力して、最終的に結ばれ、大人になる──という二人の成長物語。でも今回は、二人が人生のどんな困難も楽しんでいて、障害すら障害じゃない。「ダメならダメでいい!」というスタンスで、最後までラテンのノリで勢いよく駆け抜ける。成長物語とはまた違う一面が引き出されてとても新鮮でした。同じ作品を何度踊っても、その都度新しい発見がある。そのことを改めて実感した公演でした。
上野水香さんの写真を「秘蔵フォトギャラリー」で見る>> 全幕と小品、それぞれに求められるもの
──全幕作品と、抜粋や小品を踊る場合とでは、向き合い方に違いはありますか。上野さん:役作りの面では抜粋のほうが難しいと思います。全幕は物語の流れがあって、自然に感情に入っていける。でも抜粋の場合は、流れがない中で感情に入らなければいけない。体力的には全幕のほうがもちろん大変ですが、作品が何を語ろうとしているかは、全幕のほうがはっきり見える部分もあり、どちらにも難しさがありますね。
20代の頃から変わらぬスタイルをキープしている上野さん。美しさの秘訣を尋ねると「バレエを踊ることです」との答え。筋力や代謝を低下させないのはもちろんのこと、何よりもストレスを解消できるといいます。「どんなに嫌なことやつらいことがあっても、音楽に身を委ねて身体を動かしはじめると自然と無になれて、雑音が聴こえなくなるんですよ。心が整うと身体も整う気がします」
──〈上野水香オン・ステージ〉では、『白鳥の湖』や『ジゼル』、『ボレロ』などが予定されています。抜粋で踊る難しさはどこにありますか。上野さん:『白鳥の湖』は第2幕を踊りますが、コール・ド・バレエ*2もいるので、比較的全幕に近い感覚で踊れます。ただ、出会いの場から物語を描けないので、どう魅せていくかが腕の見せ所だと思っています。
一方で『ジゼル』の第2幕は、1幕の物語を経ずに入るので難しい。1幕でアルブレヒトと恋仲になって、でも裏切られて、心臓が弱いジゼルは狂って死んでしまう……。そのような物語が紡がれたうえで、アルブレヒトを精霊ウィリ*3たちから守るわけですけど、守り抜くシーンだけを演じるとどうなるのかな、と。ただ、2025年の8月と10月に客演で『ジゼル』全幕を踊っているので、これらの経験を思い出しながら抜粋に挑戦できるのは楽しみです。
*2……コール・ド・バレエとは、ダンサーが構成する集団のこと。群舞。
*3……精霊ウィリは、結婚前に命を落とした乙女たちのことで、森へ迷い込んだ男を死の踊りへ誘うという中欧・東欧の民間伝承。

『ジゼル』第2幕より。長きにわたりペアを組んできたアルブレヒト役の柄本弾さんとの息の合ったパートナリングに注目。東京バレエ団の真骨頂ともいえる、一糸乱れぬコール・ド・バレエも見どころのひとつ。