踊る力と芝居と運動能力が問われる『雨乞狐』
ーー続く『雨乞狐』は十八代目勘三郎さんと勘九郎さんが踊ってきた、中村屋ゆかりの舞踊です。
鶴松「僕が10歳くらいの頃に勘九郎の兄がこの『雨乞狐』を踊った時に、提灯の役で出させていただいていて、子ども心にもすごく面白いなと観ていたんです。曲もいいし振りもいいし構成もいい。その割に上演の機会はあまり多くないので、勘九郎の兄ももうやらないであろう今、僕が体が動く若いうちにやっておきたいなと思いました」
ーー野狐、雨乞巫女、座頭、小野道風、狐の嫁、提灯の6役を早替りで踊り分ける構成で、歌舞伎になじみのない方でも楽しめるエンターテインメント性の高い作品です。
鶴松「自主公演は僕にとっては研鑽の場ですが、お客様にはエンタメとして楽しんでいただける場にしたいという思いで選んだ演目でもあります。ただ踊りがうまければ面白く見えるかというと、それだけでは済まない作品です。歌舞伎の舞踊の技術と同時に、役者としての演じ分けという芝居の部分も大切。さらに身体能力も求められます。
最近、踊りの迫力とかエネルギーって、単純にただ高くジャンプするとか、単純にただ速く回転するとか、海老反りをするとか、テクニック以前の身体的な能力から生まれることも大きな要因の1つになるのではと考えるようになりました。特に今回の『雨乞狐』に関しては、そんな部分も磨いていかないと」
ーー五・六段目の勘平に続いて身体的にもハードな『雨乞狐』。スタミナをつけたり体力的なトレーニングもされているのでしょうか?
鶴松「走ったりはしていますが、結局は踊り込むことが大切なのだろうなと考えています。使う筋肉も違いますし。舞踊は舞踊で練習する、舞踊で体力をつける。芝居はセンスとか声とか息の量とか性格とか、先天的なものに左右されますが、踊りは稽古したら稽古しただけうまくなる。努力が実になると思います」