この9月、歌舞伎俳優・中村鶴松さんの自主公演、第二回「鶴明会」が開催されます。
上演される『仮名手本忠臣蔵 五・六段目』と、舞踊『雨乞狐』は、どちらも中村屋にとって大切な演目。挑戦に向けての思いを伺いました。
中村鶴松さん
今まで演じてきた役にはない勘平の魅力と難しさ
ーー鶴松さんが初めて自主公演「鶴明会」を開催したのは2022年のこと。その時は『高坏』『春興鏡獅子』という舞踊の2演目でした。
中村鶴松さん(以下鶴松)「自主公演は言葉のとおり、会場の予約からどんな演目でどなたに出ていただくか、金銭的な面まで自分で采配しなければなりません。勝手がわからなかった第一回は自分の身丈に合った規模感でやろうと思い、舞踊の2演目での上演でした。今回は、やっぱり芝居もやりたい、という思いがあり、『仮名手本忠臣蔵』の五・六段目を選びました」
ーー『仮名手本忠臣蔵』は歌舞伎の古典演目の中でも特に人気の高い作品。五・六段目の主人公である早野勘平は、中村屋代々の当たり役です。
鶴松「子どもの頃からずっと憧れていたというよりは、大人になるにしたがっていい芝居、いいお役だなと思うようになりました。十八代目中村勘三郎さんの勘平が大好きで、十七代目の映像も素晴らしくて。見れば見るほど、知れば知るほど演じてみたいと思うようになったんです。
名立たる名優が演じてきたお役なので、おいそれと僕もやりたいと口にできるものではないのですが、最近は少しずつ古典の大きいお役も勉強させていただけるようになりましたし、役が大きいほど学べることも多いので、自主公演で挑戦させていただくことにしました」 ーー今年3月の歌舞伎座での中村勘九郎さんの熱演も、大きな話題を呼びました。
鶴松「久しぶりに勘九郎の兄が勘平を勤めた公演で、始まる前は正直、観ることで演じるのが怖くなってしまうのではないかという不安がありました。でも実際の舞台を間近で拝見して、この勘平に一歩でも近づきたい!と思えるようになりました」
ーー主君・塩冶判官が殿中で高師直に斬りつけるという一大事に、腰元のおかると密会していて居合わせることができず、おかるの故郷で仇討ちに加わることを念願している勘平。しかし思わぬ運命のかけ違いから自ら命を断つという悲劇に向けて物語は進んでいきます。
鶴松「忠義とか仇討ちとか切腹って現代にはない概念なので、今の人に理解していただくのは難しいのかなと思っていました。でも、3月の歌舞伎座での通し上演の時に、お客様が皆、前のめりでご覧になっていて。時代を超えて共感していただける物語の魅力を再認識しました」
ーー女方のお役を勤めることも多い鶴松さんは、おかるも演じてみたいという気持ちはおありでしょうか?
鶴松「おかるもいつか、やってみたいです。最初に第二回鶴明会で五、六段目に挑戦します、と発表した時は演目だけのお知らせだったので、おかるをやると思われた方も多かったようですし。意外と中村屋でおかる と勘平の両方をやっている方はいないので、それができたら武器になるとは思います。でも、その前に今は勘平です!」
ーー鶴松さんは今年30歳。続く七段目に「勘平さんは三十になるやならずで死ぬるとは」という台詞があるように、勘平も30歳目前の年齢。同世代の役を演じることになります。
鶴松「近いのは年齢だけで、これまで勘平のようなタイプのお役を演じてきたことがないので、どこまで近づけるか……。2日間3回の公演では手も足も出ないかもしれません。
自分の中に物語の鍵になるような台詞や芝居はやりたい方向やイメージがあるのですが、それだけでなく、自然とふっと出る台詞や所作から、勘平の日常までを感じていただけるようになるのが目標です」
