〔特集〕価値ある作品で人生を豊かに 「アートのある暮らし」 かつては投資の対象として語られることも多かったアート。今や資産性にとどまらず、日々の暮らしを豊かに彩る存在へと広がっています。お気に入りの作品を迎えた住まいから、注目のアーティスト、飾り方まで、美術館だけではない、日常に息づくアートの魅力をお届けします。
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今、購入するべき
世界が認めた アーティスト探訪
瞬間を捉え、“変わらないもの”を問う
新城大地郎(1992〜)
「禅の思想と島の精神、そして変化していく自分の“今”を紙に留めたい」──新城さん
壁を埋め尽くす書籍と書。南国の刺すような日差しの下、このアトリエは薄暗い静けさの中にあります。「光は余計なものまで浮き彫りにします。だから僕は夜に制作するんです」。混沌としながらも無駄のない、作品に通じる独特なムードが漂う空間です。
新城大地郎(しんじょう・だいちろう)沖縄県宮古島生まれ。静岡文化芸術大学卒。禅僧で民俗学者の岡本恵昭を祖父に持ち、幼少期より禅や仏教文化に親しみながら書道を始める。禅のほか沖縄の精神文化を背景にして、伝統書道に新たな光を当てる自由なスタイルを追求。2022年には、地元宮古島に現代アートギャラリー「PALI GALLERY」をオープンさせた。
出身地である宮古島を拠点に活動する新城大地郎さん。自作の墨で表現された力強い作風は、書を抽象表現的に捉える世界のアートシーンからも注目を集めています。
《108 and 109, or 1》(2025) 墨、キャンバス 260.6×162センチ
左が108回、同じ「穿」という文字を書いたキャンバス、右はキャンバスを入れ替えて書いた109個目の「穿」。除夜の鐘と同じ回数文字を重ねることで煩悩は消えるのか。それとも109個目には新たな煩悩が生まれているのか─自身に問う作品。
新城さんがはじめて書に触れたのは4~5歳頃。島内のおおらかな書道教室で書くことの楽しさに目覚め、以来墨の香りを“精神安定剤”と感じるほど。進学のため一度島を離れますが、それでも書くことはやめず、一般企業へ就職後は社会への違和感を作品へと昇華させました。SNSに投稿した一枚をきっかけに個展開催の誘いがあり、それがアーティスト活動の第一歩であったと振り返ります。
新城さんの作品の根底にあるのは、幼少期より無意識に触れてきた禅の思想。臨済宗の僧侶を祖父に持ち、禅画や禅語に囲まれて育ちました。「文字が持つ意味や形に、囚われながらも自分なりに逸脱しようとする。この繰り返しも禅問答のようですね」。
そして宮古島を一時的に離れたからこそ意識するようになった、島独自の精神性も深く作品に表れています。「一瞬を紙の上に留める書を通して“変わらないものは何か”という問いを投げかけています。消えゆく島の思想や生き方をどう残していけばよいのか。時代への危機感も、書く理由の一つです」。
使う墨はすべて自作のもの。溶かした膠(にかわ)に墨の名産地である三重県の煤(すす)を混ぜ合わせ、手でこねながら濃度を調整する。「文字は誰でも書ける。素材とどう向き合ったか、作品の持つ力はその過程によって決まると思います」(新城さん)。
すべてがわかりやすいこの時代に、あえて読めない文字で考える余白を作る──新城さんの作品は古典的な書の表現領域を超え、鑑賞者に語りかけます。
PALI GALLERY沖縄県宮古島市平良下里574-6
TEL:080-3958-5746
営業時間:13時~17時30分
(次回へ続く。
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