〔特集〕価値ある作品で人生を豊かに 「アートのある暮らし」 かつては投資の対象として語られることも多かったアート。今や資産性にとどまらず、日々の暮らしを豊かに彩る存在へと広がっています。お気に入りの作品を迎えた住まいから、注目のアーティスト、飾り方まで、美術館だけではない、日常に息づくアートの魅力をお届けします。
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【鼎談】なぜ暮らしにアートが必要なのか
「今、買うべきアーティスト」を語ろう
日本の現代アート3大巨匠といえば、草間彌生、奈良美智、村上 隆。では、次世代エースや今後の有望株は? 日本の現代アートに精通するお三方に、今買うべき作家について聞きました。
[鼎談者]
ギャラリスト
小山登美夫(こやま・とみお)東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアートでの勤務を経て、1996年小山登美夫ギャラリーを開廊。初期の奈良美智、村上 隆を展示、さらに同世代アーティストを内外に発信し、海外のアートフェアへも積極的に参加。日本人作家の実力を世界に知らしめ、日本の現代アートを牽引。
美術評論家
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)東京藝術大学美術学部絵画科卒業。1991年から直島のアートプロジェクトに携わる。地中美術館館長、金沢21世紀美術館館長、東京藝術大学大学美術館館長・教授、練馬区立美術館館長を歴任し、2021年から「GO FOR KOGEI」の総合監修・キュレーターを務める。著書に『芸術の価値とは何か』(中公新書ラクレ)などがある。
アートアドバイザー
寺瀬由紀(てらせ・ゆき)サザビーズの現代美術アジア部門統括責任者として、アジアマーケットの躍進に貢献し、同市場の売上高3倍を達成。2021年に独立し、元同僚とアートインテリジェンスグローバル(AIG)を設立。香港とニューヨークを拠点に、現代アートの個人売買や取引、アドバイザリーサービス、作家の専門的なサポートなど、幅広いサービスを提供している。
アートコレクションは文化的なパスポートの役割を果たす
小山 先日、あるコレクターが「好きな建築家に設計してもらった家に住むのもいいけど、自分が尊敬するアーティストの作品がある空間で暮らすというのは格別のよさがある」というのを聞いて、自分は今までそんなふうに考えたことがなかったので、とてもおもしろいなと思いました。その人はきっと共感するアーティストの思想や、多数の候補の中から一点を選ぶまでの記憶を含めて、日々その作品を見るたびに感じるものがあって、それが生活の豊かさに繫がっているんでしょうね。
秋元 現代アートのコレクターにはIT系企業の経営者や若手起業家が多いですが、彼らはアートを直感や体感でストレートに捉えられる。マインドはロックです(笑)。それはきっとすごく気持ちがいいことなんでしょう。2017年にサザビーズのオークションで実業家の前澤友作さんがバスキアの作品を約123億円で落札して話題を呼びましたが、その歴史的瞬間に落札代理人として立ち会ったのが寺瀬さんですね。
寺瀬 今の若い経営者は、一世代前のようにバブルの時期に美術に手を出して失敗したトラウマもないので、確かに前澤さんの落札を境に、お金を高級な時計や車に費やすだけでなく、現代アートを集めるという選択肢があることを知り、追随する人も増えたように感じます。
秋元 彼らは変化が激しく先が見えない時代の中で常に経営的な判断を迫られるため、統計上の数字だけに頼るのではなく、視野を広げ、イノベーションの種を育て、思考を耕す訓練になるものを探しているのだと思います。アーティストは常識とはまったく違う視点でゼロから自分で考え、オリジナルの世界観を構築しようとしますから、その自由な発想や徹底的に自分自身に向き合う姿勢は、ビジネスで壁にぶち当たった際や新たな枠組みで仕事を進めていくときに、大きな力になるのではないでしょうか。
寺瀬 5年ほど前、コロナ禍で自宅で過ごす人が増えたことによって、世界的な現代アートブームが起こりましたが、当時は投機のためにアートを買う人が多かったのに対し、今はもっと純粋にアートとじっくり向き合う人がコレクターとして残っている気がします。バブルが弾けたような感じです。でも、それは業界にとって悪いことではないと思っています。
富裕層の中には、単に壁を埋める装飾のために作品を買う人もいますが、真のコレクターとは、心惹かれる作品に出会ったらまずは蒐集を決断、飾る場所は後から考えると思っているような人たちかと。
秋元 所有するアートはその人の知性や経済力、美意識の高さを可視化する記号になると私は考えています。アートコレクションを見れば、その人が知的教養が高い人だということはおのずとわかりますし、お互いのコレクションを知ると繫がりが生まれます。アートは一種の文化的なパスポートの役割を果たすともいえます。
寺瀬 確かに、コレクションを拝見するだけでその人の人となりもわかるような気がします。世界中どこへ行っても、自分はこういうコレクションを持っていますといえば、言語や人種を超えてコミュニティの仲間にすっと入れますし。
小山 相手がマニアックなものを持っていると、「あ、あれ持ってるんだ。すごいね!」となりますもんね(笑)。ただ、日本人コレクターの悩みは、現代アートについて一緒に話す仲間ができにくいことです。
寺瀬 欧米では、トップの美術館などがドナーやサポーターを集め、世界中のコレクターの自宅や作家のスタジオを一緒に巡る特別なツアーを企画していて、コミュニティが生まれやすいですが、日本はまだ自宅を公開する文化も根づいておらず、アーティストのスタジオ訪問もあまり一般的ではないですしね。
秋元 金沢の工芸作家の仕事場なんて皆、小さいですから(笑)。20~30人を案内するには何班かに分けて何回転もしなければならず、受け入れる側の準備も大変です。
寺瀬 作家も外国人との交流に慣れていませんし、古くからのおつきあいを大事にするため、海外からの突然のアプローチにあまり食いつかないケースも多い(笑)。言葉の障壁も大きいですね。
©Yu Nishimura. Courtesy the Artist and Sadie Coles HQ,London. Photo by Kei Okano 画像転載不可
西村 有
Yu Nishimura(1982~)
《when the wings lifted》2026
キャンバスに油彩 162×194センチ
世界4大メガギャラリーの一つ「デイヴィッド・ツヴィルナー」所属。2026年5月のサザビーズのオークションで、作品が約100万ドルで落札された。

©Yu Nishimura. Courtesy the Artist and Sadie Coles HQ, London. Photo by Katie Morrison
ロンドンを代表するギャラリー「セイディー・コールズ HQ」で開催された、個展『Dislocation』(2026年6月12日~8月22日)。西村の国際的な評価の高さを改めて印象づけた。

©2025 Izumi Kato. Courtesy the artist and Perrotin. Photo by Ringo Cheung. 画像転載不可
加藤 泉
Izumi Kato(1969~)
《Untitled》2025
キャンバスに油彩、額装 191.5×194.5センチ
各国に拠点を持つ世界有数のギャラリー「ペロタン」に所属。世界中の美術館やアートフェスティバル、名だたるギャラリーからの招聘が絶えない、日本を代表するアーティスト。
(次回へ続く。
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