書家・紫舟 伝統と次元を超えた“和”の世界 『美の壺』『龍馬伝』などの題字で、広くその名を知られる書家の紫舟(ししゅう)さん。伝統的な「書」を軸に発信する三次元の「書の彫刻」やアートとのコラボレーションなど、固定観念にとらわれない挑戦が国内外で評価されています。日本古来の文化へのリスペクトをベースに多彩に活躍する紫舟さんの、奥深い、唯一無二の世界をご案内します。
アート

《火の鳥》(2017年)
世界各地で語り継がれる不死鳥・火の鳥。周囲には伝説にちなむ文字が躍る。紫舟さんが「絵が自分のものになった」と思えた作品。羽田空港第2ターミナルウェルカムセンターのロビーに飾られている。
本物同士のコラボレーションで新しいアートを生み出す
書と異なるアートを組み合わせるコラボレーションも紫舟さんの重要な表現方法です。「書は天職。子どもの頃になりたかった職業は絵描き」と話す紫舟さんが、描いた絵に書を乗せる書画もその一つ。代表作『火の鳥』(写真上)では、極彩色の羽を広げる伝説の不死鳥・火の鳥の周囲に「神、扉、山」など伝説に基づく文字をちりばめています。それはまるで火の粉のように絵と一体化し、作品全体の神秘性や生命力を効果的に高めています。
「俵屋宗達の絵と本阿弥光悦の文字が融合した『鶴下絵 三十六歌仙和歌巻』のように、日本には昔からコラボレーションのアートが存在していました。本物同士のエネルギーが共鳴し合い、新たな世界を作り上げる──。それは決して単なる合作ではないのです」
〈イタリア・サルディーニャ島でのライブパフォーマンス〉(2023年)
観客の目前で作品を完成させるライブパフォーマンスを世界各国で行う紫舟さん。ときには和紙の裏側に回り、段に上り高いところまで手を伸ばす。この日、描き上げたのは、鷲の絵と「御縁」の文字。
書画を観客の目前で完成させるライブパフォーマンスは、欧米やアジア諸国でも大人気です(写真)。その国のシンボルである鳥や動物の絵に「縁、夢、絆」など日本の文字を添えた作品は、両国の良好な関係を願う大きな役割も果たしています。
またチームラボ(デジタル技術を駆使するアーティスト集団)との共作では、象形文字が動植物に形を変えて自由に動き回り、人々の想像力を掻き立てます。3000年以上の歴史を持つ文字に、最新テクノロジーとの高い親和性があることを示しました。
祈り

〈地獄絵梵焼大護摩供〉(2023年)
コロナ禍に制作した全長15メートルの屛風絵『地獄絵図~四連作』を金峯山寺蔵王堂境内でお焚き上げ。「怒り、嫉妬、憎しみなど心の中の地獄が消え去るのを実感しました」(紫舟さん)。
祝う、祈る、治す。アートの可能性は無限大
「人間に備わる想像力には、自身を癒やし人生を導く力がある」と信じる紫舟さん。人の想像力を動かす作品で、アートの新しい可能性を拓こうとしています。
〈予祝御祭〉(2026年)
橿原神宮にて。紫舟さん主宰のワークショップ参加者が書き記した心の奥の願い事を水溶紙に転写し、ご祈祷を受け、植樹する桜の根元に埋める。
たとえば「予祝(よしゅく)」。「花見は、満開の桜を秋の豊作に見立てて予(あらかじ)め祝う儀式だとの説があります。日本古来の文化に倣い、願いを書いた予祝奉書を桜の苗木と一緒に埋める『予祝御祭』を行いました(写真)。植えた桜が花開くことで、願いも美しく実を結ぶ。成就した未来の記憶を作ります。」
仏教儀式の護摩行になぞらえた、地獄を描いた屛風絵のお焚き上げ(写真上)には、人の心に巣喰う地獄の感情の浄化と、恕(ゆる)しへの祈りが込められています。さらにアートが脳に及ぼす影響にも注目し、科学者や医師とも繫がる紫舟さん。いったいどこに向かうのでしょうか。
〈アトピーが治るアート〉(2018年)
皮膚を掻くことで得られる快楽を、アートの力で他に置き換えるプロジェクト。下の写真は『掻く絵本』で、「皮膚の代わりに絵本を掻くことで快感を得られ、皮膚損傷を軽減できる」との実験に基づく作品。
「今私が見据えているのは、薬に頼る医療のその先です。人類の未開拓領域である『想像力』を、治癒を促進させる力へと転換する。想像力を導く『アート』が、病院の処方箋に記される時代を実現したいです」。
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