書家・紫舟 伝統と次元を超えた“和”の世界 『美の壺』『龍馬伝』などの題字で、広くその名を知られる書家の紫舟(ししゅう)さん。伝統的な「書」を軸に発信する三次元の「書の彫刻」やアートとのコラボレーションなど、固定観念にとらわれない挑戦が国内外で評価されています。日本古来の文化へのリスペクトをベースに多彩に活躍する紫舟さんの、奥深い、唯一無二の世界をご案内します。
書家を目指す前は絵描きになりたかった紫舟さん。絵筆を持つ仕事は「とても楽しい」という。江戸時代の絵師・伊藤若冲への敬意を込めて、アトリエで若冲作品の完全模写に取り組む。
20代半ばで書家を目指す。「書の彫刻」で世界へ。
6歳から習い始め、頭角を現したけれど好きではなかった「書」。20代半ばで「これが私の進む道」と閃いた瞬間を紫舟さんは鮮明に覚えています。
「あなたは何がしたいの? と自問自答して100日目。摺りガラスが透き通るように視界が晴れ、“私は書家になる”とわかったのです」。それはある種の啓示だったのかもしれません。
月に1、2回、地方のアトリエを訪れ、書に没頭する。外界との接触を極力避け、情報を遮断し、余計な思考を排除。食事は精進。筆先に集めたエネルギーをひたすら紙に移し続ける。やがて広い座敷は書で埋まり、足の踏み場もなくなる。
どうしたら書家になれるのか──。師を持たない紫舟さんは、本物の美を知ろうと奈良や京都の人間国宝を訪ね、教えを乞う中で、作品の持つ圧倒的な力に衝撃を受けます。「たとえば重要無形文化財の和紙──容赦ないです。筆先に全エネルギーを集めないと簡単に跳ねのけられてしまう。書には集中した分だけ力が宿ると気づきました」。いかに集中力を高めるかは、書家としての永遠の課題だといいます。
愛用の筆は毛先が長く細く、腰のない特注品。難度の高い筆を敢えて使い集中力を鍛える。

「硯、筆、紙──。道具は書家を育てる」という紫舟さんこだわりの品々。お気に入りは水鳥形の水滴。硯に水を注ぐとトクトクトクとユーモラスな“鳴き声”をあげ、過度の緊張をほぐしてくれる。
『美の壺』『龍馬伝』の題字で話題となった紫舟さんの名は、書を三次元で表現した鉄製の「書の彫刻」(261ページ)で世界に広まります。「ひと筆で書かれた線は一本の彫刻に、紙に筆を強く押したところは、正面から見ると遠くにある。日本の道文化を伝えるために筆の動きを可視化しています」。2014年、「書の彫刻」はフランス国民美術協会展で最高位金賞を受賞。「北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体にした」と称賛されました。
《NHK 美術番組『美の壺』題字》(2009年) 
番組名を聞いただけでこの特徴的な文字が浮かぶ人も多いのでは。タイトルの題字と、「黒炭」「虫」など毎週のテーマに合わせた扉の字は、放送初回から20年間、紫舟さんが担当している。
《NHK大河ドラマ『龍馬伝』題字》(2010年)
新しい世をつくる!──激動の時代を生きた若き龍馬が抱く強い志を表現。龍は龍馬と主演の福山雅治さんの風貌を、馬は時代を駆け巡った龍馬の動を、伝は龍馬の刀の軌道を表している。
「書」を軸に、ときに書家の範疇を超えたアーティストとして多彩に活躍する紫舟さん。根底には常に、日本の伝統文化や思想への敬いがありました。
(次回へ続く。)
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