元ノルウェー国立バレエ団プリンシパル・西野麻衣子さんが歩んできた人生の物語を綴った書籍『鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡』が4月23日に刊行されました。出版を記念し、15歳で日本を離れ、踊り続けてきた西野さんの人生に共感する友人で女優の赤間麻里子さんとの特別対談を、全3回にわたってお届けします。
西野麻衣子さん(左)と赤間麻里子さん(右)
西野麻衣子(にしのまいこ)さん大阪生まれ。 6才よりバレエをはじめ、橋本幸代バレエスクール、スイスのハンス・マイスター氏に学ぶ。1996年、15才で名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。1999年、19才でオーディションに合格し、ノルウェー国立バレエ団に入団。2005年、25才で同バレエ団東洋人初のプリンシパルに抜擢される。2016年3月、映画「Maikoふたたびの白鳥」が全国で公開される。バレエ団レパートリーほとんどのクラシック、コンテンポラリー作品の主役を踊る。2021年、惜しまれつつ引退後はフリーダンサーとして活躍の幅を広げ、ノルウェー王国のアンバサダーとして舞台に立つ。2022年1月より自身のスタジオ"MAIKO"を開設してバレリーナたちの後進の指導、ボディコンディショニングのトレーニングに力を注ぎ活躍中。
赤間麻里子(あかままりこ)さん神奈川県出身。無名塾に10年間在籍し数々の舞台を踏む。 2012年、『わが母の記』で役所広司さん演じる主人公の妻役で映画デビュー。主な出演作に、映画『ヘルドッグス』(22)、『流浪の月』(22)、『#拡散』(26)、ドラマTBS「田鎖ブラザーズ」(26)、日本テレビ「良いこと悪いこと」(25)、関西テレビ「アンメット」(24) 、NHK「虎に翼」(24)舞台「社会で生きる動物」などがある。7/7スタート、テレビ朝日火曜21時『クロスロード』に遠山美江役で出演、 舞台「楽屋」(演出:吉原光夫)が8/26~9/1にAPOCシアターにて上演。映画『しびれ』(内山拓也監督)が9/25公開。
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バレエダンサーと俳優、表現者としての相違点
西野 ところで、麻里子さんはどうして演技の道に進まれたのですか?
赤間 両親が映画が好きで、その影響で見ているうちに“このスクリーンに映る人になれたら素敵だな”と思うようになったんです。たぶん私も、それ以外の選択肢はなかったと思います。
西野 女優さんのお仕事は舞台と映像でまた違うでしょう? 私が舞台で踊っている時は最終的には自分がディレクターで感情を踊りで表現していますが、ドラマや映画などの映像だと監督さんがいて、同じシーンを色々な角度から何度も撮影して編集するでしょう? 同じ演技を何度も繰り返すのって大変じゃありませんか? 泣くシーンとか感情的に辛いシーンなどで気持ちを何回もそこに持っていくのって、メンタル的なスタミナがすごいなといつも思います。
赤間 逆に私は麻衣子さんのように脚を頭にくっつく位あげるなんてできないので、それぞれの職業ならではとは思いますが(笑)。映像の場合、長くてもワンシーンが10分くらいなので、そこに向けて気持ちをつくって、相手役の方の顔を見たり自分のセリフや呼吸のタイミングなどで感情が出るようにしています。
『鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡』には、ノルウェー人写真家による撮り下ろし写真も。
西野 一度、麻里子さんの撮影現場に付き人のふりをして潜入して見学してみたい!(笑) 実はコマーシャルには出演したことがあるのですが、その時も私は、動きをバレエの振り付けのように覚えました。二歩歩いて椅子に手をかけて座る、というように。
赤間 私からすると台詞を覚えるよりもバレエの振り写しの方が難しそうに感じますが?
西野 私、一度覚えた振り付けは忘れないんです。ストラヴィンスキーの変拍子なんかもどうやって覚えるの?とよく聞かれますが、数えなくても振動で体内に入ってくるんです。昔踊ったレパートリーは大抵全部覚えているので、好きな曲を電車の中で聴いている時も、たぶん体がフラフラしています。ちょっと怪しい人かも(笑)。
ノルウェーの人と自然に抱かれて
赤間 麻衣子さんはノルウェー国立バレエ団に入られてずっと踊ってこられて、ノルウェーの方と結婚して、お子さんが産まれて。暮らしていてノルウェーはどんな国ですか?
西野 冬が長いですね。一年の半分は冬。朝8時に仕事を行って、帰ってくる 3時頃はもう真っ暗。日光を浴びられる期間が短いので8月ぐらいからビタミン Dを飲むんですよ。冬はみんな暗くて、誰も目線を合わせないような感じですし……。
赤間 『叫び』で有名なムンクもノルウェーの人ですが、冬が長いからああいう絵になったのかしら……。
西野 でも長い冬の後、春になって太陽が出てくると、ノルウェー人の顔は変わります。4月になると急にハーイ!とか元気に話しかけてくるの。
豊かな自然に囲まれた暮らしが、バレエとの向き合い方を変えたと西野さんは言います。
赤間 私は息子を訪ねて一度だけオスロに行きましたが、人が少ないですよね。東京の感覚で街に出ると誰もいなくて、今日は何かがあってみんな家に籠っているの?と思ってしまいました。でも、自然の美しさは素晴らしかったですね。
西野 森が近いんです。家や仕事場からトラムに乗ってすぐに森に行ける。舞台で忙しい時なども、音楽を聴きながら森の中で歩くのが自分のリフレッシュになっていました。思えばそれも夫に会ってからなんですよね。彼に会った時は24歳でしたが、当時の私は睡眠薬を飲んでもよく眠れない状態が続いていたんです。それを「タイムオフしないと。バレリーナじゃなくてMaikoに戻る時間が大切だよ」と言ってくれて。夫に出会って眠れるようになりました。
赤間 麻衣子さんにとってはご主人あってのノルウェーなのですね。オスロは、あれこれ何かをする場所というよりも、何もしないでのんびりする場所だった感じがします。
西野 彼の両親が持っていた小さいお船があって、それを受け継いでこれから夏へのシーズンは1週間ぐらい船で過ごします。ノルウェーには“暇になるぐらい幸せなことはない“という言葉があるのですが、日本人は何もしないことが苦手な人が多いですよね。母などは遊びに来てもすることがないと何かやらなくちゃ!掃除しようかしら?となっていました。
赤間 海外に来たのに観光とかじゃなくて本当に、緑を楽しむ、空の色を楽しむという感じでした。それはそれは綺麗で。
西野 高い建物がないので空の幅が広いんです。それが真っ青だったり、夕陽で真っ赤だったり。
船着き場で夕虹とともに。夏は1週間近く船上で休暇を過ごすことも。
赤間 こういう環境から想像力が育まれ芸術家が生まれるのだな、と思いました。でも、人口が少なくて街であまり人に会わないのに劇場は賑わっているんですよね。
西野 オペラパレスは1500席がいつも満席なんです。日常として映画に行く感覚で、デートで足を運ぶカップルが多いんですよ。特にバレエの観客はオペラよりも若くて、気軽にディナーの後はバレエに行こうという感じなんです。若い人だけでなく、家族でとか、記念日だからとか、昔からおばあちゃんが娘を連れてきていてその娘がまた自分の子供を連れてきて 3世代で、とか。
赤間 それは本当に日本にも根付いてほしい文化ですね。
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次回に続く>>>

『鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡』
『鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡』
発売:2026年4月25日(土)
定価:2,420円(税込)
判型:A5・並製/232ページ
発行:株式会社世界文化社
https://books.sekaibunka.com/book/b10168364.html
https://www.amazon.co.jp/dp/4418265074